先日 尾張美濃地方で最大規模の私鉄の急行に乗っていた。
僕は進行方向に垂直方向に腰かける椅子、つまり窓を背にした椅子に腰かけていた。
途中駅から乗ってきた若い(20代と思う)男性が乗ってきた。
男性は僕の隣にどしんと座ると脚を自分の肩幅よりも左右握りこぶし一つ半分くらい開いて座ってスマホを見始めた。
肩幅より一つ半分くらい脚を広げるって実際にやってみるとわかると思うけれどかなり大股開きの座り方になる。
それで僕は足をすぼめて端に寄ったのだけれどそれでもスマホを見る腕を僕の方に向かって押し付けるようにしてきた。
僕はリュックサックを膝の上に抱きかかえる形で座っているので腕や足が肩幅の範囲より出ることは基本的にほとんどない。(ひじが少し肩幅を超えることはあると思うけど)
そのひじさえもすぼめているのにさらに腕を押し付けてくるってどうゆうことやと思った。
これ以上腕まで広げて自分が広げた分を当然のように領有されたら、電車が名古屋につくまで本当に体を左右にすぼめるようにして座っていかなければならない。
それは勘弁してくれよと思ったので 僕は腕に力を入れてそれ以上は押されないようにした。
それでも圧力をかけてくるので 圧力に屈しないように力を入れっぱなしにしていた。
すると1分くらい経過すると隣の人の呼吸が速くなってくるがわかった。
腕がお互いに力を入れた状態で接しているので腕を通して隣の人の呼吸がわかる。
ということはきっと僕の呼吸も速くなっていたということだと思う。
それは力を入れっぱなしにしていたら普段、いわゆる息があがるという状態になって心拍数と呼吸は早くなってくると思う。
よく相撲で相手が息を吐いた瞬間に寄れ と言うけれど あれもお互いに四つに組んで力を入れているから相手の呼吸がわかる。
そんな相撲で四つに組んでいるのに近いような状態でお互いに腕を押し付け合っていても何のために座っているのかわからない。
座っている方がかえってしんどいのではないかと思う。
僕はいっそのこと立とうかと思ったけれど 立ったところで 普段、正座したり、なるべく背筋を伸ばすように意識することが多いから、背中を伸ばしたいわゆる仁王立ちのような感じになってしまう。
脚を開いている男の人の前に仁王立ちしたら 喧嘩を売っていると勘違いされて危険かもしれない。
そうかといって隣の人に「なんでそんなに1.5人分も場所とってくるんや」言ったら喧嘩になってしまう可能性はさらに高いし。
喧嘩になってカーッとなって暴行罪で逮捕さらに有罪とかになったらやはり人生に大きなダメージになってしまう。
なので立つのも文句言うのもやめたけれど、ますます領有権を広げられるのもこらえてほしいと思ったので リュックを抱きかかえる手もパーからグーに握り替えて、ナヨっとした人だと思われるのだけはやめようと思った。
結局 名古屋までそのまま来てしまった。
ただ、にらみ合いになるのはいやだったからその間ずっと目は閉じていた。
もちろんずっと力を入れて押し合いをするなんて5分とは続かないので、数分するとお互いに妥協できる程度の領分で力比べは終わったけれど。
でもさすがに名古屋でその人は僕より先にさっさと降りて行った。
やはりホームに降りてまでトラブルになるのはその人も嫌だったのだと思う。
さて、このような、電車の中での無駄な領有権争いみたいなのに遭遇する可能性、あるいは蓋然性は 僕の場合、関西にいたころよりも尾張地方に来てからの方が多いように思う。
関西の場合、電車は常に乗る人降りる人がいるので 特に途中駅から乗ってきた人は 程度の差こそあれ 電車は不特定多数の人が乗り降りするし、目的地までの一過性の場所という意識が尾張地方に比べると相対的には高いからだと思う。
尾張地方の場合は、電車は人の乗り降りが常にあるというわけではなく名古屋に近づくにつれ乗ってくる人はいるけれど降りる人は少ない。
逆に名古屋から離れるにつれて乗ってくる人よりも降りる人の方が圧倒的に多く、終点につく頃には電車は空っぽにちかいということが関西に比べると相対的に多い。
つまり電車の中での人の流れが関西に比べると圧倒的に少ない。
こういう停滞した状況が電車の中での領有権争いを生むもとにもなるような気がする。
もう電車で乗り合わせた以上は名古屋まで あるいは名古屋から離れたある場所までここに乗り合わせたメンバーでいかなければならない。
メンバーがある程度、固定されている場所ではやはり人間はそのメンバーの中でも自分のポジションをどうしても意識してしまう。
そんなこともあると思う。
そして、スマホを見る人は ホームに降りても見続けるという中毒性のようなものがある。
もう電車に乗ると同時にスマホを見るという習慣になってしまうと、周りの人がどんな人かということよりもスマホの方に無意識に関心が行ってしまって隣に座っている人にも無関心ということもあると思う。
無関心でいる結果として、無駄に他人と力比べをしまったりとかそういうボタンの掛け違いのようなことも起きるのだと思う。
でも こういうことに遭遇するたびに 尾張地方は大いなる田舎(村上春樹さんは名古屋を舞台にした小説でうすらでかい田舎と書いておられたような気がする)なんだなあという思いがこみ上げてくる。
電車など公共の場での領有権争いということもそうなのだけれど 街でぶつかっても謝らない人の比率も関西に比べると圧倒的に多い。
僕は父が船乗りだったので子供のころから神戸など関西にはよく来ているし僕の家族は全員、関西をある程度は経験している。
名古屋は大阪に比べるとぶつかっても謝らない人がおおいわ と僕が言うと、家族の者は「そら関西は謝らないと なんやねん と言ってこられる可能性が高いからや」と言ってたけれど それも また事実と思う。
僕と電車で隣り合った人も無言で力比べをしているだけで お互いに 「なんやねん」と言ったりはしない。
コンビニなどでも誰も「はよせんかい」とは言わない代わりに 立つ距離を微妙に縮めてきて無言で「はよしろ」という圧力をかけてくる。
お互いに無言で睨み合う と言うことが多いから 他の地方出身者でこの地方のことを陰湿と思う人もいるのではないかと思う。
道路交通も決してマナーがよいわけではなく特に尾張小牧地方はかなりひどいと言ってもいいと思うけれど、路上での言い争いはめったに見ない。
大阪ではコインパーキングから自動車のテールが歩道にはみ出しただけで歩行者のおばちゃんに自動車のテールを小突かれたけれど名古屋ではそのように小突いてくるおばちゃんもほとんど見かけない。
無言のにらみ合いはあっても 喧嘩にまで発展することはほとんどない というのは 平和の裏返しかもしれないけれど、、、。
でも 今となっては 藤井寺球場近くの信号機で交通整理していた係員に「こら!はよ通さんかい!」言ってたおじさんがなつかしいなと思ったりもする。
それはともかく一日いちにち無事に過ごせますように それを第一に願っていきたい。