活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

味な人たち  山岡國男さん(川魚・鰻販売)

2009-07-21 00:05:50 | 活字の海(新聞記事編)
2009年7月14日(火) 毎日新聞夕刊 3面 夕刊ワイド欄より
筆者:門上武司(食雑誌「あまから手帳」編集主幹)
サブタイトル:顔の見える相手にだけ

※ 上記の写真は、大國屋のHPより。


もう、今から20年位前の頃。
当時住んでいた、西武新宿線は西武柳沢駅近くの町。
駅の傍に、一軒の鰻屋さんがあった。
超弩級の貧乏だった頃故、そこで食事をした記憶は残念ながら無い。

店頭からも、秘伝のたれのようなものにつけながら、鰻を炭火で
焼いているところが見えたような気もしたが、もう記憶も相当に
オボロゲとなっていることもあり、確かではない。

ただ。
いつも、そこの前を通る都度、いい匂いに鼻をひくつかせていた
ことは、よく覚えている。

※ このお店、Google Street Viewで確認して「浦安」と判明。  
  便利な世の中になったもんだ。
  ともあれ、健在振りを再確認できて嬉しい。
  一度、食べに行きたいなあ。近所の「だいどころ屋」と合わせて。


それから、大分時代は変わるけれども。
帝国劇場の地下2階に入っている、「神田きくかわ」。

ここの鰻は、美味しかったなあ。うん。
テレビ東京らしいバラエティだった「愛の貧乏脱出大作戦」で
出てきた達人の店で、その鰻の見事な焼き方に一度食べてみたく、
東京出張にかこつけて行ったことがあったっけ。


折りしも、19日は土用の丑の日。
それにちなんで、この日の「味な人たち」の特集は、川魚や鰻を
扱う京都・錦市場の「大國屋」の店主・山岡國男さんである。

記事の写真も、鰻の蒲焼を同時に5匹分、炭火で焼いている山岡さんの
姿であるが、本文の記事には鰻は殆ど出てこないのが残念。

専ら、山岡さんの話は鮎に絞られている。

その鮎の料理法としては、普通の日本人ならば塩焼きがやはり
最右翼だろう。

ただ。

山岡さんが鮎を卸すのは、何も和食の店ばかりでは無いらしい。

その先は、フランス料理やイタリア料理の店にも及ぶ。
では、訳隔てなく、仕入れの要望があれば卸すのかと言えば、
さに有らず。

その閾値の一つが、サブタイトルにもなった、顔の見える相手
だけ、というものである。

勿論それは、文字通りの対面販売という意味ではない。

心が通じ合う。理解しあえる相手にだけ、相対するということ。

それは、すなわち。

この料理人ならば、自分の卸した食材を最大限に活かしてもらえる。
そう、山岡さんが得心した相手にのみ、食材を卸す。
という趣旨である。


この思い、生半なものではない。

一見傲慢に思えるこの発言も、自分の食材に絶対の自信を持ち、
かつ責任を持つという卸し業者としての自負の表れだとする、
筆者の説明に思わず首肯せざるを得ない。

何せ、中途半端な食材でこのような態度を取れば、京都の料理界で
総すかんを食うことは、火を見るより明らかなのだから。

それを押して尚。
こうした発言をするその自負の高さこそが、山岡さんの卸す食材の
品質の何よりの担保となるのだろう。


仕事を、単なる労働奉仕と考える発想からは、決して出てこない
この思いの発露たる発言。

何のために、人は働くのか。
単に、日々の糧を得るためだけというのであれば、そのために割く
膨大な時間の、なんと砂を噛むような寒々としたものであるか。

仕事を、自分の誇りや意地を賭けて成し遂げるものと思い込み、
打ち込む姿勢からこそ、山岡さんのような境地に到達することが
出来るのだろう。


僕は、と省みれば…。

僕が、9時~5時で為している仕事に対して。

「俺が納得いく相手としか、仕事を組む気はない。」

こう、言い切れる自信は、残念ながら無い。

周囲に合わせて、あるいは合わせてもらって。
迎合しながら仕事を成すのではなく、為している自分がいる。


ふう。
まだまだ修行中の、この身である。

「どんな仕事でも、本当に打ち込んでやっていれば、自分の転職に
 なるのかもしれない」

かつて、NHKの「プロジェクトX」の中で語られたこの言葉を、
少しでも体現できるようになるまで。

月曜が来るのが楽しみ。そう、心から思えるようになるまで。

まずは、明日。
頑張ろうと、思う。

(この稿、了)


(付記)
冒頭に書いてあったのだが…。
天然鰻の本当の旬は、実は秋なのだそうだ。
知らなかった~。
戻りカツオのように、脂が乗ってるということなんだろうか?


(付記2)
大國屋のHPを見ると、そこでもっとも目を引くのが「ぶぶうなぎ」
というフレーズ。
これって何?と思われた方は、是非覗いてみて欲しい。




東海林さだおの書く食エッセイは、なぜこうも洒脱なんだろう。
読むと、美味しい酒と何か食べるものが欲しくなる本である。
うなぎの丸かじり (丸かじりシリーズ (25))
東海林 さだお
朝日新聞社

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