活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

Breguet  マリー・アントワネットも虜にした、その栄光

2009-06-22 00:08:17 | 活字の海(新聞記事編)
文:渋谷康人  SIGNATURE 2009年6月号


ああ。
また、やってしまった…。

この記事を読んだときの、正直な感想である。

この記事に取り上げられていた「マリー・アントワネットへの
オマージュ展
」。
銀座7丁目にあるブルゲ ブティック銀座が入居する、
ニコラス・G・ハイエックセンターにて、今年の5月16日から
31日までの、約2週間限定で催されていたこの展示会に。

行きそびれてしまったのである。

まあちょうどそのあたりは、新型インフルエンザへの反応が相当
過敏になっていた頃で、僕のいる会社でも県外への移動が禁止と
なっていたことはある。

だが、情報(記事が掲載されている雑誌)は手元に来ていたのに、
積読の挙句、展示会の存在そのものを知らなかったというのは、
そもそも何をかいわんやではある。
(知ってたら、土日に会社に黙って絶対観に行ったのに!)

昨年。
ハンマースホイの展覧会に気が付くのが遅れて、結局観ること
あたわずとなってしまったその二の舞を、今年もやってしまった
ことになる。

自分自身の迂闊さを呪うべきなのか。
それとも、単に縁が無かったと考えるべきなのか…。





ブレゲ
そもそも、その名前は僕にとって初耳だった。
ただ、サブタイトルに書かれた、マリー・アントワネットの文字に
惹かれて、この記事を読み進めていったに過ぎない。

それでも。
ページの約1/6程も占められた、巨大な懐中時計の写真は、
目を引いた。

文字盤が透明で、中の複雑な機構が美しく自己主張している。

繊細に研ぎ澄まされた針は、その先端で特徴的に丸く円となった
後に、虚空を突き刺すように鋭く尖っている。

筐体の金と、機構の銀、針の藍色が美しいコントラストを成す。

クリスタルの文字盤に、白のローマ数字で書かれた時間表記の
影が、筐体底部に薄く移るそのコントラストも美しい。


この、No.160と呼ばれる懐中時計。
これこそが、マリー・アントワネットがブルゲに1783年に発注
するも、その仕様への要求レベルが高すぎたこともあって、その
完成を待つことなく1793年に断頭台へと消えてしまったという
逸話を持つ時計である。


当時アントワネットは、金と期間に糸目はつけないから、考えられる
最高の機能と美しさを兼ね備えた時計を、とブルゲに発注したらしい。

如何にも彼女らしい発注の方法だが、もしこの時計が彼の革命に
間に合っていれば、あの首飾り事件は、ひょっとしたら懐中時計
事件となっていたのかもしれないと考えると、なかなかに感慨深い。

そこに、どのような機構が盛り込まれていたのかといえば。

以下に紹介する、「ギャラリー・フェイク」(作画:細野不二彦
ビッグコミックスピリッツに連載(終了))の中に詳しく紹介されている。


小学館文庫「ギャラリー・フェイク」第6巻(ISBN4-09-192666-5)257ページ

更に補足すると、18カラットのゴールドと水晶でできており、
63個の宝石を付けた自動巻き機構も内蔵しているともなれば、
18世紀から19世紀初頭の時計製作技術の粋を集めたと言っても
全く過言ではないだろう。

この時計は、その目指すべき頂のあまりの高さゆえに、ブルゲ
自身も完成を待たずして1823年に逝去。その後、その製作は
弟子に引き継がれ、1827年にようやく完成したという逸品
である。

そこまででも十分に、この時計の歴史は伝説となりうるが、
更に後年。
寄贈先のイスラエルの博物館から1983年(奇しくも、
アントワネットが発注してから200年後)に盗難。

その後、ブルゲ社と、その親会社であるスウォッチは、この
作品のレプリカの開発に着手。
作品No.1160と名づけられたそのレプリカの完成と、
ほぼ時を同じくして。
No.160(すなわち、盗難にあっていたオリジナル)が
発見された
のである。

なんだかもう、下手な小説よりも数奇な運命を辿っている
この時計(の、No.1160)が、日本にて展示されるという
(しかも観覧料は無料! いよ!スウォッチ!!太っ腹!)。

その機会を見逃してしまったのだから、悔しいったらないので
ある。


もっとも、今後の僕の人生で、ブルゲ社の時計を実際に身につける
ことがあるとは思えない。

そもそも、普段から時計を付けないのに加えて、その価格たるや!

この記事で紹介されている、もっとも安価なモデルで420万円。
高価なものになると、3255万円である。

そんじょそこらの家なら、十分買える価格なのである。

それだけの価値を、時計というものに見出すことが出来る人。
そして、それを実際に購買出来る財政能力を有している人。

その二つの条件のいずれにも失格する以上、僕はブルゲの時計を
身に着けることは無い、という訳だ。

それでも。
この時計を通じて、歴史に思いを馳せることは出来る。

そう考えたとき。
今回の記事に出会えたことを恭賀としつつ、読むべきときに
読むべき記事を読めなかったという悔恨に、今日も煩悶する
日々が続くのである。

(この稿、了)



今まで時計というものに、全く興味が無かったんだが、
こういう本を見ているとその道に入れ込む人の気持ちも、
判るような気がする。
機械式時計 解体新書―歴史をひもとき機構を識る
本間 誠二
大泉書店

このアイテムの詳細を見る



ニューヨークのメトロポリタン美術館でプロフェッサーの
異名で呼ばれていた程に、その実力を認められていたにも
関わらず、ある事情でスピンアウトして今は闇のディーラーに。
そんな主人公(フジタ)に加え、サラという魅力的なキャラを
得て、本書の魅力は高まるばかり。
美術に関心が無くとも、あれば更に興味を掻き立てられる名作です。
ギャラリーフェイク (1) (ビッグコミックス)
細野 不二彦
小学館

このアイテムの詳細を見る


歴史の影に、時計有り。
ということで、この一冊。値段が安価なのも魅力。
歴史の陰に時計あり!!―時計で世界の出来事をウオッチング
織田 一朗
グリーンアロー出版社

このアイテムの詳細を見る

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新幹線ガール | トップ | アスペルガーに生まれて~ ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

活字の海(新聞記事編)」カテゴリの最新記事