活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

篠山紀信さんに聞く

2009-06-10 00:02:01 | 活字の海(新聞記事編)
2009年5月28日(木) 毎日新聞朝刊 12面プラスαより
記:高橋咲子(毎日新聞 西部報道部記者)
サブタイトル:撮り続けて半世紀 集大成のヌード写真集を刊行
       時代が生む 新しい表現


写真には、時代を映すという考え方がある。
一昔前のニュース写真等を見ると、当該のニュース以前に
そこに映しこまれた世相に思わぬ発見がある、ということも、
よくある話である。

篠山紀信
の考えは、それと真っ向から対立する。

彼が映し出したいのは、純粋に被写体のみ。
それ以外は、全て不純物と彼は考える。

となれば…。
被写体以外の一切の映り込みを阻止する術として、被写体を
ヌードにすることは必然的な流れだったと、彼は述懐する。

勿論、ヌードを撮影するに当たっては、社会的規範やモラル
との間の線引きをどのように設定するのか?という問いは、
それが撮影時に為されたものか、あるいは作品として世に問う
ものを選定する段階で為されたものかはともかくとして、常に
彼の中で繰り返されてきたものだろう。


そうした篠山が撮り貯めてきた50年間の軌跡を集大成した
ものが、この写真集「NUDE by KISHIN」である。

ユニークなのは、その編集方法。
自らの創作物に思い入れがあるものとしては。
こうした場合、撮影した本人がベストな作品をチョイスするのが
一般的な手法だろう。

ところが、今回彼は、クリエイティブ・ディレクターであり、
京都造形芸術大学ASP学科教授でもある後藤繁雄に、
その全作品を渡し、作品の選択から構成までを一任するという
所作に出る。

このことは、極端に被写体のみに焦点を絞り込むという篠山の
手法とはある意味対極的に、個々の作品が相互に触発し合い、
新たなインパクトを持って拡散していくといった効果を生み出した。

言わばこの写真集は、篠山紀信と後藤繁雄のコラボ作品とも言える
だろう。


勿論、まず最初に篠山の写真が有りきなことは、言うまでもないが。

その篠山は、齢70歳。古希を迎えた。
篠山が「Water fruit」や「Santa Fe」で一世を風靡したのは
1991年。
勿論、それ以降も精力的に作品を発表し続けているが、その間に
時代とメディアは大きく変遷した。
その結果、活字、コミックを含めて印刷メディアは大きく衰退したと
言われる。
それは、例えば篠山紀信が数多くその作品を発表していた、
週刊プレイボーイの廃刊等に顕著に表されている。

そうした、印刷メディア不遇の時代にあって。
彼から見て、昨今のメディアの実情はどのように写っているのか。

記者のインタビューに答えて、彼が応える内容は意表を突いている。

別に、そのことで必要以上にペシミスティックになることは無い。
今までのやり方が通用しないのであれば、それとは異なる方向の
ヌードを見出していけばよいのだから、と。

更に、言を重ねて。

そうしたヌードを見出すために、殊更に何かをしなければならない
ということは思っていない。

「新しいヒト、コト、モノにアンテナを張っていれば、おのずと
新しい表現が生まれます」

こう言い切れるのは、彼の才覚が言わしめているとも言えるだろう。

ただ、その才覚も、磨かなければただの路傍の石である。
彼が、そうした発言をさらりと言えるようになるまでの半生において、
どれほどの逡巡と後悔と、そして自尊があったことか。

それらを全て踏まえた上で、尚。
上記の発言を何気なさげに言い放つことの出来る篠山紀信という男。
やはり、只者ではないと思う。

時代が生んでくれたもの。
彼が、自らの作品を指して語った言葉である。

だが、それは違う、と思う。

同じ時間を、時代を過ごしていても。
どう生きるかによって、全く密度は異なるのだから。

時代が生んだのではなく、その時代に篠山自身が生み出したもの。
それは、正しく篠山が時代を引き寄せたものだと思う。


(この稿、了)


(付記)
しかし、この男。
南沙織を妻にして、更には何千人のヌードを見てきたことか。
男として、羨ましい限りである(笑)。
もっとも、彼に言わせれば。
誰にだって出来るよ。時代と被写体にきちんと向き合うことさえ
出来れば、となるのかも知れないが。






しかし、この唇の表紙。実に扇情的である。いいなぁ。
NUDE by KISHIN
篠山紀信
朝日出版社

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今回、彼のHPを見ていて発見したもの。
昔、友人がこれを持っていたなぁ(笑)。
激写、何もかも、皆懐かしい。

激写・135人の女ともだち―篠山紀信全撮影 (1979年)
篠山 紀信
小学館

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