活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

図書館 愛書家の楽園

2009-03-16 21:12:04 | 活字の海(書評の書評編)
著者:アルベルト・マングェル (白水社・3570円)
評者:池内 紀
毎日新聞 今週の本棚 2008年11月2日より 

サブタイトル:本が開示する空間の魅惑と不思議

※ この書評の原文は、こちらで読めます


大規模書店の、ドミノのように続く書棚を見る興奮。
町の小さな図書館の陳列に、店主のこだわりを発見して感じる共感。
図書館の、ありとあらゆる智慧が凝縮された空間の只中にいると
実感できる幸福。
そして、古本屋のすえたインクと埃の匂いに塗れる恍惚…。

本が群れるところが大好きな人間にとって、これらの場所は、
その存在を思うだけで幸せな気分に浸ることが出来る桃源郷である。

勿論、実際に足を踏み入れた暁には、浦島太郎が如く、時を忘れて
入り浸ってしまう危険なタイムマシンでもある。

そうした本好きは、古今どこにでもいるようで、こうした本が世に
出ることそれ自体が、全ての活字中毒者に栄光あれ!と高らかに
凱歌を上げたくなるような興奮をもたらす。


以前、ハンセン氏病によって、視力は元より指先の感覚まで失って
しまった人が、舌で点字を読んでいる情景をフィルムを通してで
あるが見たことがある。

ことほど左様に、人が知識を得たいとする欲求は本能的なものであり、
それはあの昭和の名作「ノーラの箱舟」でブラックボックスなる名を
与えられたコンピュータが、如何なる形であれ情報を求め欲していた
その形と相似するものである。

コンピュータによるとはいえ、人工知能として人格を持ったブラック
ボックス氏であれば、”人間”として当然のことであろう。

 ※ 「ノーラの箱舟」については、また別途章を起こして
    書評したい。名作である!


愛書家であれば、誰でも一度は夢想したことがあるであろう。
無人島にもし行くとしたら、どの本を持っていくか?という命題を。

そうした、愛書家の思いや疑問を凝縮し、丹念に解きほぐしていった
ような本が、本書である。

例えば、ロビンソン・クルーソー。
彼が難破して漂着した島で、船からやっとの思いで回収した本。
それは、どんな本だったのか。
それを読んで、彼はどんな気持になったのか。

例えば、アウシュビッツの収容所。
そこに設けられた児童図書室。
誰が、どんな情念で、どのような品揃えにしたのか。
(ちなみに、蔵書は僅か8冊だったらしい。背筋が寒くなる話である)

例えば、著者が師事していたアルゼンチン出身の作家ボルヘス。
日本にも来たことがあり、知識家として名高い彼の書棚には、どんな
本があったのか。

そうした、愛書家には堪らない切り口で、本にまつわる様々な話が
紐解かれていく面白さ。


そして、最後に。
作者は活字を、印刷されることにより独特の物質的属性を有する
ものであり、決してモニターに投影されたものでは代替しえない。
それこそが本なのだ、と定義する。

全ての、インクの匂いの中毒者の方々よ。
本書を手に取り、いざ活字の地平を見極めようではないか!


ちなみに、この本。
さきほど検索したら、中之島図書館で順番待ちが14番目だった。

う~ん。活字の地平を極める道のりの、先は長い(笑)。


(この稿、了)




図書館 愛書家の楽園
アルベルト・マングェル
白水社

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