活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

新幸福論 ありふれた日常に

2009-08-13 01:37:28 | 活字の海(新聞記事編)
2009年7月31日(金) 毎日新聞夕刊 3面夕刊ワイドより
インタビュイー:徳永進(医師) インタビュアー:林由紀子(毎日新聞記者)



死に際して。
出来れば。
ジタバタせずに、そのときを迎えたいと思っている。
だから、もし末期癌に羅患したとすれば、きちんとその事実を教えて
欲しいと思っている。

そして。
十返舎一九のように、自分の寝棺に花火を入れてまで受けを狙おう
とまでは思わないけれど、こっそりとお別れビデオを撮影しておいて、
通夜あるいは葬式に来てくれた奇特な方々には、自分の言葉でお礼を
言う位のノリは有ってもいいかと思っている。
(悪趣味? でも、結構笑いを取れると思うんだけど…。
 ただ、既に同種のサービスを始めている葬儀社がある話しを聞いて、
 後塵を拝するのは癪なのでこのプランは断念)

※ ちなみに、十返舎一九の辞世の句。なんとも粋ではないか。
   
  「此世をば どりやおいとまに せん香と
             ともにつひには 灰(はい)左様なら」


でも。
実際はどうなんだろう?
ジタバタともがいて治療法を検索しては先生を問い詰めて辟易させ、
他の健康な人を嫉み、自分の不幸を呪い、癌になった内臓を恨む。
そんな顛末には絶対にならないと言い切るだけの自信は、正直無い。


そもそもが、核家族化が進んだ現代では、死そのものに触れる
機会も減少してきている。

ご他聞に漏れず、僕も死と接した経験は数えるほどしか持たないが、
そんな中でも死という言葉から連想されるものといえば、もう10年
程前に難病にかかって亡くなった叔母のお見舞いに行った時に、
叔母が呟いた「なんでこんなことになってしまったんやろう」という
言葉に凝縮される。

確か、叔母は自分の病気の詳しい内容も、余命も聞かされて
いなかった筈である。
その叔母の口からもれ出たこの言葉は、死の重さ、辛さ、怖さ、
そして哀しさを感じさせるに十分だった・・・。


それでも。
死は不幸ではない。
今回のインタビュイーである徳永氏は、こう言い切る。

氏は、鳥取県にあるホスピス機能を併せ持つ野の花診療所の所長
として、3~4日に1回は人の死を看取るような生活を送っている。

その氏がこれまでに出会ってきた多くの人々の言葉が、そして
それに彫琢され続けた氏の思いが。

そう言わせしめているのだ。

そもそも。
死は生の延長線上にある。
死を迎えるからには、それまでの間に生が必ず有る訳である。
であれば、その生を肯定的に考えることが出来れば。

死のイメージが、まるで急流の先に滝があるように人生がプッツリと
切れてしまうようなイメージから、あたかもその刹那から異なる階層に
移り住むような。そうした感覚で死を受け止めることが出来る。

これが、単に観念論的にそうした話しを言われても、説得力も何も
無いが、実際に死を前にした患者さん達が残していった言葉だとすれば。

そうした思いの境地に至ることこそが、死の恐怖を克服する唯一の道
だとも納得できるというものだ。


それでも、インタビュワーは「誰もが前向きになれるでしょうか。」
との疑念を氏にぶつける。

不躾とは思わない。
むしろ、氏の言葉を真摯に受け止めたからこそ出た更問だろう。


そこでの氏の回答は、陳腐な言い回しだが人間賛歌に満ちている。

ありふれた日常の中にこそ、人生の幸せがある。
そして、そうした日常の延長線上に死が有るならば、人の死も
また生の様相が変化したものに過ぎない。

そうした境地に達した人の例として、氏はある女性の発言を紹介
する。

診療所のボランティアの女性が、自ら末期癌に掛かったときに
語った言葉。

「死ぬって楽しみ。どんなことが起こるかしら」


なべて、死の前を必死に生き抜こうとする人の姿は凄い。
その凄さの前には、人生が幸せだとか、不幸せだとかを計ることは
意味を成さずに霧散する。

だから、まだ見ぬ死に徒(いたずら)に怯えることなく、日々の
暮らしを営んでいけば、必ず人はそこから前向きになれる。と。

正に、色即是空ではないか。


(この稿、了)





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