活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

ムカデ競争(児童文学編)

2009-05-13 00:22:41 | 創作の海
「おい。」と、兄ちゃんから呼びかけられたような気がした。

ふと気がつくと、兄ちゃんはもう歩き出している。
僕はあわてて、兄ちゃんの後を追いかけた。

「に、兄ちゃん、待ってよ。急に動かないでよ。」

「ああ、悪い悪い。腹ぁへったもんでな。」

一応口ではそう言っているが、全然そういう風には見えない。
前のめりに、急ぎ足でせかせかと、でもどこか悠然と進んでいく
兄ちゃんは、僕ら兄弟の憧れであり、誇りなんだ。

兄ちゃんの後を追いかけて歩き出した僕を見て、今度は
弟達が、これまたあわててついてきた。

口々に文句を言うが、一々聞いてはいられない。
だって、兄ちゃんが何を考えているのかわかるのは、兄ちゃん
だけなんだから。

僕だって、ついていくのが精一杯なんだ。
兄弟だったら、やっぱ、目上のものにはちゃんと従わないとな。

次第に、スピードを上げていく兄ちゃん。
僕ら兄弟は、実に仲がいい。
みんな、僕らが兄弟だとは思っていないようだけれど、ちゃんと
同じかあちゃんから生まれた兄弟なんだぜ。
だから、仲がいいのも当たり前さ。

と、その時。
勢いをつけて兄ちゃんに追いつこうとしていた僕の背中が、
ぐいっと引っ張られた。

「何やってんだよ?兄ちゃんがいっちゃうじゃないか!?」

後ろから来ている弟に怒鳴る。

「ごめんごめん。なんだか、調子がうまくいかなくって。
 どうしてかなぁ。」

こいつは、どうもこうしたのんびり、とっぽいところがある。
おかげで、こいつと列を組む僕はいい迷惑だが、こればかりは
どうしようもない。

いつか、こいつも僕の背中を見て、男の生き様って奴を学んで
くれりゃあいいんだけれど。

おっと。
兄ちゃんが止まった。僕もあわてて止まったその矢先。
僕の背中に、弟がぶつかってきた。

「あいてて。」

ばか。そりゃ僕の台詞だっ!

------o --- o--------

その夜。
寝床に入ってから、兄弟会議が開かれた。
議題は、勿論こいつのことだ。

兄ちゃんが、弟に問い質した。
「なあ、弟よ。なんでお前は、他の兄ちゃんや弟のように、
 みんなと足並み揃えて動けないんだ?
 このままだと、動くたんびに前や後ろにぶつかって、お前は
 みんなから総すかんをくっちゃうぞ?」

「う~ん。それは判るんだけどね。どうしても、できないの。
 一所懸命見て、真似しようとね、思ってるんだけど。」

「思ってるだけぢゃ、駄目なんだよ。ちゃんとやれよ!」

これは、弟の後ろの弟からの声だ。
あいつも僕と同じく、この弟にぶつかられているからなぁ。
そう言いたい気持ちは、痛いほどわかる。

「まあ、そういうな。別に弟だってやろうと思ってぶつかっている
 訳ではないんだから。そうだろ?」と、兄ちゃん。

「だから、困るんだよなぁ。文句も言えなくて。」
「もう少し何とかならないの?」

皆、口々に騒ぎ出した。こうなったら、もうまとまるものも
まとまらない。

「まあ皆待て。」と、兄ちゃんが皆を諌めた。
「なあ弟よ。人間のやる、ムカデ競争って遊びを知っているか?
 あれは、人間ごときが俺達ムカデの真似をして、皆で列を
 作って足並み揃えて競争するよな?
 で、俺達みたいにきちんと統率が取れないチームは、全然
 進めなかったり、転んじまったりしているだろ?

 俺達ムカデは、兄弟皆ががっちりスクラムを組んで、皆で
 きちんと統率を取って動いているからこそ素早く動けるし、
 俺も目の前のことだけ見て対処してればいい。俺達みなの
 動きを俺が仕切ろうなんて思ったら、いくら俺でも出来っこ
 ないからな。

 そんな俺達の動きに憧れて、人間はさっき話したムカデ競争
 なんて遊びを始めた訳だが、そんな俺達の動きは、長男の俺の
 動きに合わせて、皆が順番に、間髪入れずに追いかけて連動
 していくからこそ、実現出来るんだ。

 その中で、お前一人がとっちらかった動きをしたら、それこそ
 人間のムカデ競争みたいに足をもつらせて転ぶようなことに
 なりかねねぇ。

 もし、そんな様を他のムカデに見られてみろ。
 末代までの恥じゃすまねぇ。

 お前が悪気が有ってやってるんじゃないのはよく判ってるが、
 明日からも少し頑張って、少しでも前の兄ちゃんに合わせて
 動いてくれよ。」


兄ちゃんは言うだけ言って、早々に今日は終わり。寝るぞ!と言うや否や、
3秒後には鼾をかき始めた。


------o --- o--------


突然、体が持ち上げられた。
何かで挟み込まれたように、がっちりと固定されていて、
身動きも出来ない。

「なんだ、なんだぁ!?」
「わわわ」

兄弟達が、口々に騒いでいるのが聞こえるが、こっちも
周りを見るどころではない。
 カラスだ!でかいカラスが、俺達の体をくちばしでくわえて、
巣に運ぼうとしている!

このまま食われて溜まるか!と、皆足を動かしてもがくが、
まるで流れを読んでいるかのように、カラスは僕達の体をくわえ
なおしたりして、どうすることもできやしない。

兄ちゃんが、鋭いあごで噛み付こうとしているけれど、やはり
押さえ込まれていて駄目みたいだ。

みるみる、カラスの巣が近づいてきた。
そこには、ギャアギャアと煩い子ガラスがひしめき合っている。

もう駄目だ!食われる!

そう思った刹那…。

ギョエェェェと、鋭い声が上がったかと思うと、僕達の体を
押さえている嘴の力が、少し緩んだ。

 それっとばかりに必死の力で身震いしたとき、僕達の体はするりと
嘴から離れて、地面へと落ちていった。


------o --- o--------


「それにしても、今日は危なかったなぁ。」

寝床に帰ってからも、皆口々に今日の話で盛り上がっている。
まあ、まさに九死に一生って感じだったからね。

でも、なんであのとき、カラスの奴は嘴の力を緩めたんだろう?

そんな声が上がってきたとき。

「なnだ、みんな見ていなかったのか?」と、兄ちゃんの声がした。

「あのとき、皆が動き回っていても、カラスの奴はその動きを察知して、
 巧みに首を振ったりしてかまれたりしないようにしていたよな。
 でも、その中で、弟だけが、ばらばらに動いていたおかげで、
 弟の振り回した足が、奴の目に入ったのさ。
 それで、たまらなくなって、奴は俺達の体を落としたって訳だ。」

あの騒ぎの中で、冷静にそれを見ていた兄ちゃんも凄いが、弟のばらばらの
動きのおかげで助かったなんて!?

当の弟は、そんなことを知ってか知らずか、眠たそうに欠伸をしている。

そうだよな。これだけ兄弟がいるんだから、たまには変な動きをする奴が
いてもいいか。なんとか、皆で助け合っていければいいよな。


今日は、ありがとう。

もう眠ってしまった弟にそっとつぶやいて、僕も目を閉じた。

(この稿、了)


(付記)
ムカデの脚は、本当にそれぞれに神経弓が付いていて、自律して動いている
ようです。
頭にある頭脳で、あの脚全部を制御することは無理だそうなので。

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2 コメント

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Unknown (シャドー81)
2009-05-13 21:31:42
ははは、最初からネタが割れていたよ。
・・・
と思ったら、違った。

ムカデの節足一つ一つが兄弟だったか。

なるほど、おもしろい視点だ。

◎をあげよう。

ただ惜しむらくは・・・弟が兄ちゃんと呼ぶのはいいが、兄が、弟よとは呼ばない無いなぁ・・・普通。

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えへへ (MOLTA)
2009-05-13 21:41:47
そうですね。
固有名詞にするかmちょっと考えたんですが、結局無個性の方がいいかなと思ってこういう書き方にしました。

が、やっぱ変ですよね?(笑)。

次は、もちっと頑張ります。
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