活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

味な人たち 巌康孝さん(珈琲豆焙煎士)

2009-08-18 00:39:01 | 活字の海(新聞記事編)
2009年7月7日(火) 毎日新聞夕刊 3面 夕刊ワイド欄より
筆者:門上武司(食雑誌「あまから手帳」編集主幹)
サブタイトル:”一杯入魂” 気合が大切



日ごろ、あまり意識せずに飲んでいるコーヒー。

一応家には(電気式だけど)サイフォンも持っていて、週末はそれで
コーヒーを飲んでいるのだけれど、元来そんなに拘っている方でも
ない。

だから。
豆はどこのものがいいとか、深炒りだ、いや、浅炒りだとかには
あまり気にしてこなかった。


今そのことを、もの凄く後悔している。

今回のコラムで紹介された、巌康孝さんのコーヒーに賭ける思いを
読んでしまうと、何気に飲むことなんて出来そうにない…。



美味しいコーヒーを売り物にしている喫茶店は、世に多い。
自家焙煎だをしている店だって、探せば見つけられないことも無い。

それでも。
喫茶店経営者、かつコーヒー豆の卸業を営む巌氏が出すコーヒーは。
豆と、自分のスタイルについて知り抜いたもののみが生み出しうる
味わいが有る。


意味が分からない?
よろしい。解説しよう(笑)。


コーヒーの味の決め手とは、なんだろうか?

豆?
水?
器具?
タイミング?

いやいや。
そんなものだけでは決まらない奥の深さが、コーヒーには有る。

それらすべてに対する心配りは勿論のこと。
出すお店の大きさ。メニュー。料理のクオリティー。
それらによっても、全てベストなコーヒーは変幻する。

それが故。
巌氏は、コーヒーを卸す際にも。
相手がどのような店を営んでいるのか。
その経営ポリシーは何か。メニューは? 座席数は?等々、様々に質問を
繰り返す。
それはまるで、オーナーそのものをも理解しようとさえ思える。

そうしたヒアリングを経て、そのお店の、引いてはそのオーナーのために
氏が生み出したコーヒーが、不味かろう筈も無い。

まして、氏が自分の店で出すコーヒーである。
自分の店の特徴を誰よりも知りぬいている氏が、自分の店のために
ブレンドした、コーヒーなのである。

こう書いていても、キーボードから芳しい芳香の幻が立ち上ってきそう
になるではないか。


そこまで読んだとき、コーヒーを甘く見ていた自分にやっと気がついた。

どんなものであれ。
その道を極めんとすれば、不断の努力と熱意が必要となる。
コーヒーもまた、然り。

”一杯入魂”。
この言葉を、何の衒いも躊躇いも無く口に出来ることの凄さ。

今度は、目でではなく、この舌で氏の入れるコーヒーを飲んでみたい
ものだ。

神戸。元町の高架下にある喫茶店。
「GREENS Coffee Roaster」

またいつか。
行かなければならぬ場所が、増えてしまった。



(この稿、了)




(付記)

それにしても。
今までに、コーヒーを一体何倍飲んできたのだろう?

普段、会社で飲むコーヒー。
休日に、家で入れるドリップのコーヒー。
長丁場の会議の合間に飲む、冷えた缶コーヒー。
お気に入りの喫茶店(もう一軒も無いのが寂しい…)で飲む、
これまたお気に入りのブレンドのコーヒー。

様々なシーンで。
様々な味のコーヒーを飲んできた。

その中で、一番印象に残っているものを辿ってみると…。

もう20年近く前。
下宿先の近所に住む友人のところで飲んだ、コーヒー。

そいつが、「サイフォンを買ったんだ~」と、相好を崩して言う
ものだから、僕もつい「おお、じゃあ飲ませろ」と遊びに行った。

今でも、はっきり覚えている。
古い鉄骨のマンションとハイツの真ん中くらいの建物。
そこの3階に、そいつは住んでいた。

部屋に上がり、他愛もない話でひとしきり盛り上がった後。

じゃあ、始めるか。

の声と共に始まったのは、正にイニシエーションだった。

透明な輝きを放つフラスコ。
アルコールランプの、揺らめく炎。
コポコポと魅惑的な音を立てて沸き上がる泡。
そして部屋中に満ちてくる、何ともいえないアロマ…。


でも。
美味しいコーヒーというだけなら、いくらでも、色んなところで
飲んでいる(筈だ) < 少し弱気(笑)。


あのコーヒーが、こんなにも印象に残っているのは。
やっぱり、あいつと飲んだからなんだろう。

いつの間にか、あいつも三人の子持ち。
お互いに、あの頃とは随分と遠いところに来てしまったけれど。

まだ、お前の家のどこかには、あのサイフォンは仕舞って有ると、
思いたい。

いつかまた。
お前のコーヒーを、飲ませてくれよ。
いつかで、いいから。


クリスティの戯曲をノベライズしたもの。
といっても、普通のノベライズとは一風変わっていて、どちらかといえば
シナリオに補筆している、と言ったところかな。
面白さは、さすがクリスティ。
ブラック・コーヒー (小説版) (クリスティ・コレクション)
アガサ・クリスティ
早川書房

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横浜から神戸まで。
高速を飛ばして飲みに行く、ただ一杯のコーヒー。
マスターのコーヒーには、それだけの価値が有る。
さらりとこんな台詞を言ってみたいもんだ。
バイクにまだ乗り始めの頃に、どえらい洗礼を受けた漫画。

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