壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

梅白し

2011年02月21日 22時42分17秒 | Weblog
          京に上りて、三井秋風が鳴滝の
          山家を訪ふ   梅 林
        梅白し昨日や鶴を盗まれし     芭 蕉

 秋風の別荘に梅林があったので、主人を、隠士 林和靖(りんわせい)に比した挨拶の句。
 梅の白さに心ひかれ、自ずと隠士 林和靖が連想され、さらにそこから鶴に発展してゆく想の流れは、談林的な古典の扱いからはるかに踏み出して巧みである。

 「三井秋風」は、三井六右衛門時治。京都の富豪で、文学に心を寄せ、梅盛門、後 宗因門。鳴滝に別荘を持っていた。
 「昨日や鶴を盗まれし」は、林和靖の故事を踏んでいる。林和靖は宋の高士、西湖の孤山にすみ、梅を妻とし、鶴を子とした。小艇を湖上に浮かべて遊ぶときも、留守に客があれば、童子が鶴を放って空に舞わし、これを見て帰るのが常であったという。

 季語は「梅」で春。

    「梅林の梅が白く咲いていて、かの隠士 林和靖の隠棲(いんせい)にも比すべき
     住居である。しかし、林和靖ならば常に伴うはずの双鶴が見えないのは、もしか
     すると昨日あたり盗まれたものであろうか」


      寒梅の影 唐紙に日の移る     季 己