壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

『去来抄』10 面梶よ

2011年11月21日 22時36分56秒 | Weblog
        面梶よ明石のとまり時鳥     野 水

 『猿蓑』の撰のとき、
 私は「この句は先師(芭蕉)の、野を横に馬引きむけよほととぎす、と同じような句です。だから、この集に入れるべきではないでしょう」といった。
 先師は「明石という土地で、時鳥を詠んだのはよいではないか」といわれた。
 私は「明石で時鳥を詠むよさは存じません。ただ、この句は先師の句の馬を、舟に取り替えただけです。作者の創意による手柄はありません」と主張した。
 先師は「なるほど、句の創意工夫という点では、わしの句から一歩も出ていない。ただ、明石という土地を見出したのを取り柄に、まあ入れてもいいのではないかい。しかし、それは撰者であるお前たちふたりの考えに任せよう」といわれた。
 それで、ついにこの句を除くことにした。


      喜寿米寿まで生きたくて冬日向     季 己