壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

「字書きの豊さん」の話

2008年01月06日 19時49分29秒 | Weblog
 「字書きの豊さん」は、人好き、話好きだ。
 商売?の表札・招き板の販売そっちのけで、誰彼つかまえては話しかけている。
 注文の表札を書き上げたあと、色紙に、私の干支「羊」一字を書いて、プレゼントしてくれた。さらに、もう一枚書いてくれるというので、このブログのタイトル「壺中日月」を書いていただいた。

 「字書きの豊さん」は、皇室の海外訪問・お土産用の風呂敷に、「楽」の一字を500枚書いたこともあるという。緊張はしたが、500通りの「楽」の字が書けて、楽しかったという。
 風呂敷は、どんな用途にも使えるので、外国人には特に喜ばれるそうだ。

 色紙をプレゼントされた手前?、聞き役に徹した。
そんな話の中で、特に感銘を受けた話があるので、次にそれを紹介しよう。


 字を書くことは人生訓だと、私は思っています。
 字を書くことは難しい、とよく言われますが、実は簡単なのです。コツは、三角形の中に、はみ出さないように書くこと。この、はみださないことが大切。
 私は三角形のマスを想定して、その中いっぱいに書くように心がけています。
 三角形は、マスに適度な空白、つまり、余裕ができるし、底辺が安定しているから、字体は縦でも横でも見栄えがいいんですね。
 四角形のマス目だと、空白が多くなりすぎ、これは無駄な空間になってしまいます。
 人にも同じことが言えると思うんです。
 無駄ではなくて余裕が必要です。
 いっぱい、いっぱいの力で取り組まれると、周囲の人は疲れますよね。
 親殺し、子殺しの事件が起きると、ぞっとします。
 今は、親子間の問題が、事件に発展する時代ですが、親に余裕がないから、子どもが抑えつけられちゃうのかも知れない。
 でもね、筆は生意気だから、ぐいぐい抑えつけ、いじめていじめて、いじめ抜いて、こちらの思う通りにさせないと、いかんのです。筆は、抑えつけられ、いじめぬられるのがうれしいのです。使わずに放っておくのが、一番いけない。
 私が、表札・招き板を書くのに使う筆は、ここにある二本だけ。毎日まいにち、私はこの二本の筆と格闘しているのです……。


 心にしみる「字書きの豊さん」の話である。

     春動くいぢめぬかれし筆二本     季 己