“前”がつく国のくらげは食用になる、などといわれて、越前くらげや備前くらげの粕漬・二杯酢は珍味として、呑助に好まれている。
これに反して、赤くらげ・行灯くらげ・天草くらげ・火くらげなどは、長い触手に激毒があって、海水浴の客が刺されることがある。
このように、くらげには多くの種類があるが、無色なのが、港に大発生してゆらゆらと漂い、傘をあおって泳ぐ姿は、こっけいであり不気味でもある。
潮の流れのままに漂うくらげの姿は、見ようによっては、己の運命を委ねきった心易さを思わせる。
くらげは、いったい何を考えているのだろう。何を食べて生きているのだろう。
源平合戦の頃の武将、源仲正の歌に、
わが恋は 海の月をぞ 待ちわたる
海月の骨に 逢ふ世ありやと
というのがあるが、いつまでも適えられることのない恋の侘しさを、骨のない海月が、いつになったら骨を身につけて、人並みに身なりを整えることが出来るのだろうという心もとなさに掛けて詠んだものである。
『枕草子』には、一条天皇の中宮定子の御所に、中宮の弟の隆家がやって来て、「すばらしい扇の骨が手に入ったが、これには滅多な紙は貼れたものではない」と得意になっているので、清少納言が、「一体どんな骨でございますか」と尋ねると、「いやもう、全然見たこともない骨だ」とおっしゃるので、「それではきっと海月の骨ですね」とからかって、大笑いになったという話がある。
絶対に無いものと相場のきまった海月が、骨なしになった訳には、誰でも知っているお伽話がある。
龍宮の乙姫様が、ご病気になられた。それには猿の生き胆が効くというので、猿の生き胆を取ってくる使いに、海月が選ばれた。
早速、猿の所へ出かけた海月が、言葉巧みに猿を連れ出したはしたものの、何のご用かと聞かれ、ついうっかり、生き胆を薬にすると洩らしたので、そこは智恵の働く猿が、「それならそうと早く言って下さればよいのに、今日、私は生き胆を洗濯して、枝に干しておいたから、このまま行っても乙姫様のお役には立ちますまい。早速、帰って取って来ましょう」と、逃げてしまった。
まんまと騙された海月が、その罰に、骨を抜かれて、龍宮を追放されてしまったという話である。
ところで、「くらげ」はふつう「海月」あるいは「水母」と書くが、山口誓子は「水月」と書いている。
「くらげ」を海の月と書くのは、海面にぽっかりと浮く「くらげ」を月に見立てたからであろう。すると、誓子は、水面に浮く「くらげ」を月に見立てたのかもしれない。
では、水に母と書くのは……?
海月浮くわれも静かにおよがねば 季 己
これに反して、赤くらげ・行灯くらげ・天草くらげ・火くらげなどは、長い触手に激毒があって、海水浴の客が刺されることがある。
このように、くらげには多くの種類があるが、無色なのが、港に大発生してゆらゆらと漂い、傘をあおって泳ぐ姿は、こっけいであり不気味でもある。
潮の流れのままに漂うくらげの姿は、見ようによっては、己の運命を委ねきった心易さを思わせる。
くらげは、いったい何を考えているのだろう。何を食べて生きているのだろう。
源平合戦の頃の武将、源仲正の歌に、
わが恋は 海の月をぞ 待ちわたる
海月の骨に 逢ふ世ありやと
というのがあるが、いつまでも適えられることのない恋の侘しさを、骨のない海月が、いつになったら骨を身につけて、人並みに身なりを整えることが出来るのだろうという心もとなさに掛けて詠んだものである。
『枕草子』には、一条天皇の中宮定子の御所に、中宮の弟の隆家がやって来て、「すばらしい扇の骨が手に入ったが、これには滅多な紙は貼れたものではない」と得意になっているので、清少納言が、「一体どんな骨でございますか」と尋ねると、「いやもう、全然見たこともない骨だ」とおっしゃるので、「それではきっと海月の骨ですね」とからかって、大笑いになったという話がある。
絶対に無いものと相場のきまった海月が、骨なしになった訳には、誰でも知っているお伽話がある。
龍宮の乙姫様が、ご病気になられた。それには猿の生き胆が効くというので、猿の生き胆を取ってくる使いに、海月が選ばれた。
早速、猿の所へ出かけた海月が、言葉巧みに猿を連れ出したはしたものの、何のご用かと聞かれ、ついうっかり、生き胆を薬にすると洩らしたので、そこは智恵の働く猿が、「それならそうと早く言って下さればよいのに、今日、私は生き胆を洗濯して、枝に干しておいたから、このまま行っても乙姫様のお役には立ちますまい。早速、帰って取って来ましょう」と、逃げてしまった。
まんまと騙された海月が、その罰に、骨を抜かれて、龍宮を追放されてしまったという話である。
ところで、「くらげ」はふつう「海月」あるいは「水母」と書くが、山口誓子は「水月」と書いている。
「くらげ」を海の月と書くのは、海面にぽっかりと浮く「くらげ」を月に見立てたからであろう。すると、誓子は、水面に浮く「くらげ」を月に見立てたのかもしれない。
では、水に母と書くのは……?
海月浮くわれも静かにおよがねば 季 己