壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

午の貝

2011年06月21日 22時24分34秒 | Weblog
        午の貝田うた音なく成にけり     蕪 村

 昔は、水の都合、頃合いなどを見計らって、一つの村が共同体を作って、短時間に次々と田植をしていったものである。みんなの中から推されて、適当な人物が指南役となり、法螺貝(ほらがい)も吹くのである。

 「午(ひる)の貝」は、正午、つまり、昼飯の時間を知らせる法螺貝のこと。
 「田うた」は田植歌。
 「音なく成(なり)にけり」は、歌声はもちろん物音はいっさい消え去った、ということである。

 田植歌を中断させるのに、より強い法螺貝の音をもってし、一つには、今までの田植歌の賑わしさを改めて強く意識させ、二つには、午後から再び始まるであろう田植歌の賑わしさを予感させるなど、「聴覚」のみによって、悠々と「時間」を料理し得た句である。

 季語は「田うた」、つまり「田植」で夏。

    「近在うちそろっての共同の田植。男の声、女の声の田植歌が賑やかに聞こ
     えていたが、やがて正午を知らせる法螺貝の音が高々と響きわたった。
     すると、みんな畦などに上がって昼餉にかかるとみえて、歌声がぱったり
     と止んでしまった。しばらくは打って変わった静けさである」


      ひとり客ゐる梅雨晴の染織展     季 己