壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

破風

2010年08月03日 22時52分45秒 | Weblog
        破風口に日影や弱る夕涼み     芭 蕉

 この句、諸本により次のような句形がある。
        唐破風の入日や薄き夕涼み
        破風口や日影かげろふ夕涼み
        唐破風や日影かげろふ夕涼み

 暑さから解放されて、一日が終わってゆく移りゆきに、静かに目を注いでいるさまが、「日影や弱る」という言い方や、全体の低く静かな音調に表現されている。
 「唐破風(からはふ)の入日や」の句形は、未定稿としてしりぞけてしまうわけにはいかないが、日常吟としてみれば、「唐破風の」より「破風口に」の方がおだやかであるし、「薄き」よりは「弱る」の方が、時間的変化をより微妙につかんでいるといえよう。「唐破風」の句形は、むしろ挨拶吟としてみると、適切さが感じられるような句柄である。

 「破風(はふ)」は、屋根の切妻(きりづま)についている合掌形の板をいう。普通は直線形だが、唐門(からもん)などに見られる波状のものを唐破風という。
 「日影や弱る」は、「日影かげろふ」の形もあるところから考えれば属目の情景で、「や」は感動の意であろう。
 「かげろふ」は、光がかげる意。

 季語は「夕涼み」で夏。属目の実感と思われる。

    「夕涼みをしていると、にわかに涼気が感じられてくる。
     眺めやると、あの高い破風口に残っていた西日も、いま
     刻々に衰えてゆくようだ」


      夕涼み一茶を語るいごつそう     季 己