梅の花を尋ねて野道を歩いていたら、ひょいと何かを踏みつけてしまった。なんと蕗の薹である。「もう蕗の薹が出ているのか」と、春の足音を聞く思いがした。蕗の薹も、早い春を知らせるシグナルの一つであろう。
そういえば今日、関東地方にも春一番が吹いたとのこと。今も、東側の雨戸が強風にガタガタと鳴っている。
蕗の薹ふみてゆききや善き隣 久 女
早春、雪解けを待ちかねたように黒い土を破って萌え出る、丸い球のような蕗の薹は、葉よりも先に伸びて来た、蕗の花の蕾なのだ。
蕾の色は緑だが、花は、少し黄色がかって白い雄花と、真白い雌花とが別々になっていて、雄花が散ったあと、黄色い雌花がぐんぐん伸びて、四月ごろには30センチほどになる。盛りが過ぎることを「薹が立つ」というが、そのことを言うのである。
蕗の薹傾く南部富士もまた 青 邨
蕗の薹はまた、地方によって色々な呼び方がある。
大和地方では、「蕗の姑(しゅうとめ)」といって、「麦と姑は踏むがよい」という、いささか穏やかならぬ諺があるが、麦踏と同様、蕗の薹も、土を破って顔を出したばかりの頃に、上から踏みつけておくと、大きなのが出てくるからだといわれている。
また春の終わりごろ、銀色の穂綿をつけた実が風に飛ぶようになる。これも「ふきのしゅうとめ」というそうだが、例句は知らない。
その他、河内地方では、「蕗の爺(じい)」とも呼んでいるとのこと。
蕗の薹食べる空気を汚さずに 綾 子
蕗の薹には、一種の薫りと苦味があり、あまり一般向きの味わいではないが、一ひねりひねった食通には、かえってそれが喜ばれている。
蕗の薹を刻んで、おすましの汁の吸口に入れたり、料理のつまにするのが普通だが、精進揚げや刻んだものを味噌に混ぜて焼味噌に仕立てた蕗味噌も、その風味が喜ばれている。
酒いたく呑みてをかしや蕗の薹 召 波
上戸の俳人召波は、よほど蕗の薹が好きであったと見えて、
苦き手のその人ゆかし蕗の薹 召 波
と、料理した人の手に沁みついたその苦さをさえ、ありがたがって俳句にしている。
竹そよぐ真下やしゃんと蕗の薹 季 己
そういえば今日、関東地方にも春一番が吹いたとのこと。今も、東側の雨戸が強風にガタガタと鳴っている。
蕗の薹ふみてゆききや善き隣 久 女
早春、雪解けを待ちかねたように黒い土を破って萌え出る、丸い球のような蕗の薹は、葉よりも先に伸びて来た、蕗の花の蕾なのだ。
蕾の色は緑だが、花は、少し黄色がかって白い雄花と、真白い雌花とが別々になっていて、雄花が散ったあと、黄色い雌花がぐんぐん伸びて、四月ごろには30センチほどになる。盛りが過ぎることを「薹が立つ」というが、そのことを言うのである。
蕗の薹傾く南部富士もまた 青 邨
蕗の薹はまた、地方によって色々な呼び方がある。
大和地方では、「蕗の姑(しゅうとめ)」といって、「麦と姑は踏むがよい」という、いささか穏やかならぬ諺があるが、麦踏と同様、蕗の薹も、土を破って顔を出したばかりの頃に、上から踏みつけておくと、大きなのが出てくるからだといわれている。
また春の終わりごろ、銀色の穂綿をつけた実が風に飛ぶようになる。これも「ふきのしゅうとめ」というそうだが、例句は知らない。
その他、河内地方では、「蕗の爺(じい)」とも呼んでいるとのこと。
蕗の薹食べる空気を汚さずに 綾 子
蕗の薹には、一種の薫りと苦味があり、あまり一般向きの味わいではないが、一ひねりひねった食通には、かえってそれが喜ばれている。
蕗の薹を刻んで、おすましの汁の吸口に入れたり、料理のつまにするのが普通だが、精進揚げや刻んだものを味噌に混ぜて焼味噌に仕立てた蕗味噌も、その風味が喜ばれている。
酒いたく呑みてをかしや蕗の薹 召 波
上戸の俳人召波は、よほど蕗の薹が好きであったと見えて、
苦き手のその人ゆかし蕗の薹 召 波
と、料理した人の手に沁みついたその苦さをさえ、ありがたがって俳句にしている。
竹そよぐ真下やしゃんと蕗の薹 季 己