甲斐山中
山賤のおとがひ閉づる葎かな 芭 蕉
「甲斐山中」という前書にふさわしい句である。
人に会うこともない山中で、ようやくにして会った山賤(やまがつ)も、怒ったような無愛想な表情をして、口を開きそうな気配も見えぬ、という力強い句である。
山中、人懐かしさの念がきざしている折も折、はからずも会った山賤の風貌の、いかにも山人らしい厳しさに、驚き見つめている感じの句である。
「山賤」は、樵夫(きこり)など、山仕事を生業(なりわい)とする者。
「おとがひ閉づる葎(むぐら)」は、葎が山賤の頤(おとがい)のあたりまで茂っているさまととる説、雑草の高さにあきれて口を閉ざす意にとる説などがある。
葎が繁茂している中で会った山賤が、都人などと違って、無愛想に口を閉じているさま、ととるのが面白いと思う。
頤を隠すととると、「葎」は理詰めの把握になる。山賤が頤を閉ざすととった場合は、「葎」はこれをかこむ場になって、句が面白くなる。
「おとがひ」は、頤で‘下あご’のこと。
「葎」は、荒れ地や野原に茂る雑草の総称。たくましくはびこる雑草の代表としていったものであろう。これが季語で夏。
「人も行かぬ、雑草の丈なす山中で会った山賤は、むずと口を閉ざして開こうともしない」
八重葎かがみてよはひひしひしと 季 己
山賤のおとがひ閉づる葎かな 芭 蕉
「甲斐山中」という前書にふさわしい句である。
人に会うこともない山中で、ようやくにして会った山賤(やまがつ)も、怒ったような無愛想な表情をして、口を開きそうな気配も見えぬ、という力強い句である。
山中、人懐かしさの念がきざしている折も折、はからずも会った山賤の風貌の、いかにも山人らしい厳しさに、驚き見つめている感じの句である。
「山賤」は、樵夫(きこり)など、山仕事を生業(なりわい)とする者。
「おとがひ閉づる葎(むぐら)」は、葎が山賤の頤(おとがい)のあたりまで茂っているさまととる説、雑草の高さにあきれて口を閉ざす意にとる説などがある。
葎が繁茂している中で会った山賤が、都人などと違って、無愛想に口を閉じているさま、ととるのが面白いと思う。
頤を隠すととると、「葎」は理詰めの把握になる。山賤が頤を閉ざすととった場合は、「葎」はこれをかこむ場になって、句が面白くなる。
「おとがひ」は、頤で‘下あご’のこと。
「葎」は、荒れ地や野原に茂る雑草の総称。たくましくはびこる雑草の代表としていったものであろう。これが季語で夏。
「人も行かぬ、雑草の丈なす山中で会った山賤は、むずと口を閉ざして開こうともしない」
八重葎かがみてよはひひしひしと 季 己