壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

昼もかなしけ

2011年11月19日 22時48分00秒 | Weblog
                   防 人
        筑波嶺の さゆるの花の ゆ床にも
          かなしけ妹ぞ 昼もかなしけ  
(『万葉集』巻二十)

 常陸那賀郡、上丁、大舎人部千文(おおとねりべのちぶみ)の作である。
 「さゆる」は「小百合(さゆり)」の、「ゆ床」は「夜床(よどこ)」の訛。また、「かなしけ」は、「かなしき」の訛である。
 「よどこ」をユドコと訛ったから、「ゆる」のユに連続させて序詞とした。しかし、「筑波嶺の小百合の花の」までは、ただの空想ではなく、郷土での実際の見聞を元としたのが珍しい。
 一首の意は、
      「筑波の山の百合の花のごとく、夜の床でも可愛い妻だが、昼日中でも
       可愛くて忘れられない」
というので、その言い方がいかにも素朴直截(ちょくせつ)で、愛誦するに堪えるべきものである。この言い方は、巻十四の東歌に見るような民謡風なものだから、あるいは、そういう既にあったものを書き記して通告したとも取れるが、もし、この千文という者が作ったとすると、東歌なども東国の人々によって作られたことが分かり、興味深い。


      冬桜あたりありあり淡きかな     季 己