壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

声澄みて

2010年10月18日 21時10分04秒 | Weblog
        声澄みて北斗にひびく砧かな     芭 蕉

 砧(きぬた)そのものに即して詠み、聴覚と視覚とに同時に澄み入るものが感じられる。
 「音澄みて」といわず「声澄みて」としたのは、李白の「長安一片ノ月、万戸衣ヲ檮(う)ツノ声」(子夜呉歌)などが心にあった発想であろう。
 また、『和漢朗詠集』には「北斗星前旅雁ヲ横タフ、南楼月下寒衣ヲ檮ツ」(劉元叔)があり、この冬、伊賀での歌仙の発句に「霜に今行くや北斗の星の前  百歳子」がある。

 この句、『都曲(みやこぶり)』(元禄三年二月跋・言水編)に「京 芭蕉」と入集(にっしゅう)しているが、他に出ているのを見ない。元禄二年、もしくはそれ以前の作。

 「北斗」は北斗七星のこと。

 季語は「砧」で秋。「砧」は、布を打つ木や石の台、キヌイタの略という。布や洗濯物を打って、つやを出したりやわらかにしたりするもの。砧そのものの味わいを生かす。ただし、場面は想像されたもののような感じがある。

    「秋の夜、砧を打つ音が澄んでいて、仰ぐと北斗星があざやかにかかっている。
     北斗星を仰ぎつづけていると、その砧の音が北斗星に響くように感じられる」


      狛犬のこゑか鎌倉星月夜     季 己