壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

七小町

2010年09月23日 20時32分20秒 | Weblog
        名月や海に向へば七小町     芭 蕉

 昨日の「名月や児たち並ぶ堂の縁」の静的把握に対して、この句では、時の移りにつれて、種々に変化してゆくところを動的に把握しようとしている。だが、幻想的な月光美へ惹かれる心情を底に置いている点では共通なものが感じられる。
 『初蟬』・『三冊子』に、「堂の縁」の句の再案として掲出されているが、「是も尚あらためんとて」(初蟬)とあるのは、やはりこの幻想美が、芭蕉のこの頃の心境から見ると、浮いたものに感ぜられたためであると考えられる。

 「海」は、湖、ここでは琵琶湖のこと。
 「七小町(ななこまち)」は、小野小町の宮仕えから窮死(きゅうし)にいたるまでの数奇な運命が謡曲につくられ、「草紙洗(そうしあらい)小町」・「通(かよい)小町」・「鸚鵡(おうむ)小町」・「卒都婆(そとば)小町」・「関寺小町」・「清水小町」・「高安小町」の七曲の小町物となったのを総称していう。ここは月光美の種々変転して止まぬところを七小町にたとえていったもの。琵琶湖の美の変化を、小野小町の七つの変貌に比したのであろう。

 季語は「名月」で秋。名月をその変化の点で生かした発想。

    「名月が琵琶湖の上に影を映している。その美しい趣をずっと眺めわたしていると、
     時の移るにつれて、あるいは華麗に、あるいは哀切に、微妙な美の様相の変化が
     感じられて、あたかも、あの『七小町』として謡曲にえがかれている小野小町の
     生涯を見る思いがすることだ」


      秋彼岸 墓のうしろを水流れ     季 己