桜をばなど寝所にせぬぞ、
花に寝ぬ春の鳥の心よ
花に寝ぬこれも類か鼠の巣 芭 蕉
ネズミが天井裏などで騒いでいたのであろう。春の夜、その巣を空にして騒ぎまわるネズミの姿から、ふと『源氏物語』の一節がおもしろく浮かんで、「花に寝ぬこれも類(たぐい)か」というつぶやきとなったものと思う。ネズミの上に『源氏物語』の世界が感じとられるところに俳諧がある。ひとり興じている姿であるが、興じつつ実は孤独な姿が感じとれる。
「桜をばなど……」は、『源氏物語』若菜の巻上に、
いかなれば 花に木づたふ 鶯の
桜をわきて 塒(ねぐら)とはせぬ
春の鳥の、桜ひとつにとまらぬ心よ、あやしと覚ゆることぞかし。
と柏木が口ずさんだ、ということがあるのによったもの。「春の鳥の、桜ひとつにとまらぬ心よ」というのは、源氏(鶯)が女三の宮(桜)だけを、ひたすらに愛することをせず、紫の上のほうに通われることを言ったもの。
「花に寝ぬこれも類か」は、「これも『花に寝ぬ』たぐひか」の倒置。
季語は「花」で春。「花」そのものの趣に焦点を合わせたものではなく、古典を使った俳諧化の契機として用いられたもの。
「おやおやネズミが巣を抜け出て、寝ようともせず浮かれ騒いでいるよ。『源氏物語』には、
鶯があちこち木伝いして、桜ひとつに落ちつかないで移り歩いているとあるが、ネズミもそれ
と同じたぐいなのであろうか、何ともおもしろいことだ」
江戸彼岸 墓のひとつの樹木葬 季 己
花に寝ぬ春の鳥の心よ
花に寝ぬこれも類か鼠の巣 芭 蕉
ネズミが天井裏などで騒いでいたのであろう。春の夜、その巣を空にして騒ぎまわるネズミの姿から、ふと『源氏物語』の一節がおもしろく浮かんで、「花に寝ぬこれも類(たぐい)か」というつぶやきとなったものと思う。ネズミの上に『源氏物語』の世界が感じとられるところに俳諧がある。ひとり興じている姿であるが、興じつつ実は孤独な姿が感じとれる。
「桜をばなど……」は、『源氏物語』若菜の巻上に、
いかなれば 花に木づたふ 鶯の
桜をわきて 塒(ねぐら)とはせぬ
春の鳥の、桜ひとつにとまらぬ心よ、あやしと覚ゆることぞかし。
と柏木が口ずさんだ、ということがあるのによったもの。「春の鳥の、桜ひとつにとまらぬ心よ」というのは、源氏(鶯)が女三の宮(桜)だけを、ひたすらに愛することをせず、紫の上のほうに通われることを言ったもの。
「花に寝ぬこれも類か」は、「これも『花に寝ぬ』たぐひか」の倒置。
季語は「花」で春。「花」そのものの趣に焦点を合わせたものではなく、古典を使った俳諧化の契機として用いられたもの。
「おやおやネズミが巣を抜け出て、寝ようともせず浮かれ騒いでいるよ。『源氏物語』には、
鶯があちこち木伝いして、桜ひとつに落ちつかないで移り歩いているとあるが、ネズミもそれ
と同じたぐいなのであろうか、何ともおもしろいことだ」
江戸彼岸 墓のひとつの樹木葬 季 己