壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

芹焼

2009年12月18日 20時36分37秒 | Weblog
        悲しまむや墨子芹焼を見てもなほ     芭 蕉

 『エ南子(えなんじ)』の、墨子が白い練糸を見て、それが黄・黒などの色に染められ、変わってゆくことを泣いた、という故事を踏まえて発想したもの。(エは、氵に隹)

 「芹焼(せりやき)」は、鴨・雁などの鳥肉の切身に、臭いを消すために芹を入れ、さらに慈姑(くわい)・麩(ふ)・蒲鉾(かまぼこ)・蓮根(れんこん)などを加えて、醤油で味付けをした鍋焼料理。鍋のまま食べる鍋焼がふつうだが、昔は、焼石の上に芹を置いて、蒸焼きにしたといわれる。
 この句の場合、芹そのものを茹でるか炒める場合と考えた方がいい。
 『毛吹草』に作者不知(さくしゃしらず)として、
        「沢辺でも芹やきするか水烟」
 という句があり、『料理物語』に、「芹。汁・あへもの・せりやき・なます・いり鳥に入る。みつばぜりも同じ」とある。
 「墨子(ぼくし)」は、春秋戦国時代の思想家で、兼愛説と非戦論を唱えた。著書に『墨子』五十三編がある。

 「芹」そのものは春の季語であるが、この句は「芹焼」で冬季。

    「いま、芹が焼かれて緑の色を変えてゆく。これを墨子が見たら、練糸の色が
     さまざまに染まるのを悲しんだように、やはり嘆くであろうか、いや、この
     こうばしい香に心をひかれてしまうことであろうよ」


      人来れば母の機嫌の蕪蒸     季 己