壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

焼き芋

2008年12月22日 17時03分16秒 | Weblog
 昨日から吹き荒れた南風で、今朝の室温は23度。もちろん、暖房器具は何も使っていない。
 それが夕方、窓ガラスが真白に曇ってしまった。風が北風に変わったのだ。指で落書きをしたくなったが、ぐっと、こらえた。

        いも屋の前に焼けるを待つ下女子守なんど     子 規

 冬の食べ物で、懐かしさを覚えるものに、焼き芋がある。
 焼き芋というと、女性の専売特許?と思っている変人は、焼き芋を買うのが恥ずかしく、滅多に買ったことはないが、子供のころはよく食べたものだった。
 焼き芋に限らず、芋・豆・南瓜など、含水炭素を多く含む澱粉質の食べ物は、皮下脂肪を蓄えて、女性の肌を美しくする作用があるという。だから、焼き芋は、女性の本能的に好物となるのであろう。
 近頃のように、ダイエットばやりでは、意識して、その食欲を抑えていらっしゃる方も多いのではなかろうか。

        甘藷(いも)焼けてゐる藁の火の美しく     虚 子

 しかし、その材料の薩摩芋としては、焼き芋ほど簡単でおいしい料理法はなかろう。
 今はなくなってしまったが、近所に、夏は氷屋、冬は焼き芋屋という店があったが、これは、当時の商売の定法であったのだろう。

        壺焼芋何か途方に暮れゐたる     千 空
        ネロの業火石焼芋の竃に燃ゆ     三 鬼      

 「歳時記」で“焼藷”の項を見ると、傍題として、焼芋・西京焼・ほつこり・石焼いも・壺焼・大学いも・焼藷屋、とある。
 これまた今は出来ないが、落葉焚きのときなど、薩摩芋を火中に入れて焼いたものは、最高にうまい。「栗より(九里四里)うまい十三里」といわれるように、ほかほかとした芳しさは格別である。
 西京焼は、薩摩芋を薄く切って塩・胡麻をつけて蒸し焼きにしたもので、ほつこり、ともいう。石焼芋は、薩摩芋を、焼いた小石に埋めて焼いたもの、壺焼は、薩摩芋を大きな壺に入れて蒸し焼きにしたものである。
 また、大学芋は、乱切りにした薩摩芋を油で揚げ、砂糖蜜をからめて炒り胡麻をまぶしたもので、大正から昭和にかけて、学生街で好まれたことから、その名が付けられたという。

        煙り先行す石焼藷の車         秋 を
        石焼芋屋門前に来て火を焚けり     敦
        焼芋や八坂神社の朱の鳥居       晋
        焼藷の車に寒さつきまとふ       羽 公

 東京では、小石を敷き詰めた壺の中で、丸ごとの芋を蒸し焼きにする、石焼芋がふつうであるが、関西では、大きな丸芋を輪切りにして、大きな鉄鍋に塩をまいた上で焼く、芳しい焦げ目のついた焼芋、いわゆる西京焼・ほつこりが本命とのこと。
 東京では、「いーしーやーきーいもの、ほっかーほーかー」と呼び歩くのに対して、大阪では、「やーきーいもー、ほっこりー」と呼び歩くと、俳句仲間から聞いたことがある。ホッコリ焼きあがった感じを、そのまま言葉に表したものであろうが、いかにもうまそうに思える。


      焼芋の声の尾を引くサンシャイン     季 己