壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

坂部隆芳展

2008年02月06日 21時47分16秒 | Weblog
 暦の上では春なのに、雪が舞ってきた。
 時々、明るくなる空から、白々と落ちてきて、すぐ消える。春の雪である。
 消えやすい印象を泡雪・沫雪と書き、あわゆき、と読む。
 春に降る、やわらかで消えやすい雪を淡雪というが、こちらは、発音はあわゆきであるが、かなづかいは、“あはゆき”である。

 きょうの一句の句材を求めて、浅草寺へ向かう。
 こんな淡雪のなかでも、雷門の前には、人力車の客引き?がいる。見れば、雷門通りを一台の人力車が、走り始めたところ。
 ここで一句、授かったので、観音さんにお礼のお辞儀だけして、日本橋へ急ぐ。

 高島屋へ入り、6階美術画廊へ直行。
 「――パリ、創りあげた30年の美――『坂部隆芳展』」を観る。
 (坂部隆芳氏のことは、全く知らないので、案内状をそのまま写す)

   このたび高島屋美術部創設百年記念展として、坂部隆芳先生の初個展を
  開催いたします。先生は、1953年静岡県に生まれ、1974年日本大学芸術学
  部デザイン科を卒業後渡仏、パリ国立美術学校にて学ばれました。現在は、
  パリとイスタンブールにて制作活動を続け、その作品群はパリ近代美術館
  をはじめ、国内外の数多くのコレクターから極めて高い評価を得ておられ
  ます。「絵は自分自身である」という作品の静謐で慈愛に満ちた人物像や
  風景は、ジャンルや国境を超越し、観る者に深い感動を与えてくれます。
  類稀なる孤高の絵画世界を何卒ご高覧賜りますようご案内申しあげます。

 一度観たら、忘れられない絵だ。<類稀なる孤高の絵画世界>というのが、よくわかる。一言で言えば、“平成の長谷川等伯”のような感じ。
 一通り、いや正確には、三通り観終わったところで、美術部のHさんから声をかけられ、図録をいただく。図録を見て納得。作者のことばに、次の一節がある。

  私にはこの世で好きな絵が三点ある
  それは 薄暗い熊野の風景を背にうっすらと浮き上がる
  モザイクを引き締めたように琥珀色のしぶきを放つ
  那智瀧の図であり
  光沢のない背景に厳然たる建築のごとく黒々と屹立する
  束帯姿の藤原隆信作、平重盛像であり
  霧の中から幽霊のように現れる松、
  これ以上、美しく、力強く、明確、な表現方法はほかにない
  それは長谷川等伯作、松林図屏風である

 奇しくも、この3点は、わたしも大好きな作品で、機会あるごとに実物を拝観している。「松林図屏風」は、何度、観ただろうか。また、「藤原隆信の研究」は、わたしのライフワークの一つであるので、「頼朝像」や「重盛像」は、穴のあくほど観ている。
 氏の作品は、古典の緻密な模写の上に、己独自の感性を融合させ、古くて新しいものに仕上がっている。 

 氏は、古典をかなりしっかり学んでおられると思う。何よりいいのは、古典の技術だけでなく、その深い精神性をもしっかり身につけられたことだ。そうしたものに、フランスで学ばれた近代絵画の特徴をも踏まえ、独自の感性で、“虚実皮膜の間”の、実の上3メートルくらいのところを描いたのが、氏の作品であると思う。

 30点ほどの作品の中で、ふるえるほどの感動を覚えたのは、「源頼朝像」、「平重盛像」、「那智瀧の図」、「松」、「光琳:紅白梅図のエチュードゥ」。
 12日(火)まで開かれているので、足を運んではいかが……。
 

      あはゆきや雷門に人力車     季 己