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〈一〇九〇〔何をやっても間に合はない〕〉

一〇九〇    〔何をやっても間に合はない〕
   何をやっても間に合はない
   世界ぜんたい間に合はない
   その親愛な仲間のひとり
       また稲びかり
   雑誌を読んで兎を飼って
   その兎の眼が赤くうるんで
   草もたべれば小鳥みたいに啼きもする
       何といふ北の暗さだ
       また一ぺんに叩くのだらう
   さうしてそれも間に合はない
   貧しい小屋の軒下に
   自分で作った巣箱に入れて
   兎が十もならんでゐた
   外套のかたちした
   オリーブいろの縮のシャツに
   長靴をはき
   頬のあかるいその青年が
   裏の方から走って来て
   はげしい雨にぬれながら
   わたくしの訪ねる家を教へた
   わたくしが訪ねるその人と
   縮れた髪も眼も物云ひもそっくりな
   その人が
   わたくしを知ってるやうにわらひながら
   詳しくみちを教へてくれた
   ああ家の中は暗くて藁を打つ気持にもなれず
   雨のなかを表に出れば兎はなかず
   所在ない所在ないそのひとよ
   きっとわたくしの訪ねる者が
   笑っていふにちがひない
   「あゝ 従兄すか。
   さっぱり仕事稼がなぃで
   のらくらもので。」
   世界ぜんたい何をやっても間に合はない
   その親愛な近代文明と新な文化の過渡期のひとよ。
             <『校本宮澤賢治全集第六巻』(筑摩書房)201p~より>
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《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。
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