この度、
「典拠欄」のは、下掲の【典拠リスト】のそれぞれに当たる。
という資料を作った。
私のような者が今頃になって作るまでもなく、疾うの昔に少なからぬ賢治研究家の方々がこのような一覧表を作っていて当然のはずだ。それもかくの如き叩き台のような中途半端なものではなくて、もっと完成度の高い一覧表をである。ところがそのようなものはもちろんのこと、このような中途半端なものでさえも作 . . . 本文を読む
賢治が『この篇みな/疲労時及病中の心ここになき手記なり/発表すべからず』と記して封印したはずの詩稿群だったが、その遺志に反して公にされてしまった、いわゆる「10番稿」のリストは以下の通り。
・第二集 506 〔そのとき嫁いだ妹に云ふ〕
・第二集 383 鬼言(幻聴)
・第三集 春と修羅 715 〔道べの粗朶に〕 . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「補遺詩篇Ⅱ」分)
〔十いくつかの夜とひる〕
十いくつかの夜とひる
患んでもだえてゐた間
寒くあかるい空気のなかで
千の芝罘白菜は
はぢけるまでの砲弾になり
包頭連の七百は
立派な麺麭の形になった
あゝひっそりとしたこの霜の国
ひっそりとしたすぎなや砂
しかも向ふでは川がときどき、 . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(文語詩未定稿分)
スタンレー探険隊に対する二人のコンゴー土人の演説
白人白人いづくへ行くや
こゝを溯らば毒の滝
がまは汝を膨らまし
鰐は汝の手を食はん
ちがひなしちがひなし
がまは汝の舌を抜き
鰐は汝の手を食はん
白人白人いづくへ行くや
こゝより奥は暗の森 . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
〔馬が一疋〕
馬が一疋
米を一駄大じにつけて
ひかって浅い吹雪の川を
せいいっぱいにあるいてくる
ひともやっぱり
十本ばかりの松の林をうしろにしょって
下ばかり見てとぼとぼくる
駒頭から台へかけて、
草場も林も
山は一列まっ白だ
上ではそらが青 . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
〔もう二三べん〕
もう二三べん
おれは甲助をにらみつけなければならん
山の雪から風のぴーぴー吹くなかに
部落総出の布令を出し
杉だの栗だのごちゃまぜに伐って
水路のへりの楊に二本
林のかげの崖べり添ひに三本
立てなくてもいゝ電柱を立て
点けなくてもいゝあかりをつけて . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
冗語
また降ってくる
コキヤや羽衣甘藍、
植えるのはあとだ
堆肥を埋めてしまってくれ
啼いてる啼いてる
水禽園で、
頭の上に雲の来るのが嬉しいらしい
孔雀もまじって鳴いてゐる
北緯三十九度六月十日の孔雀だな
ははは 羆熊の堆肥
かういふものをこさえたの . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
春曇吉日
朱塗の蓋へ、
廻状至急と書きつけた、
状箱をもって
坂をのぼり
ひばのかきねをはいり
いちいちふれてあるくところ
明か清かの気風だな
あの調子では
まだ二時間は集るまい . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(文語詩未定稿)
〔馬行き人行き自転車行きて〕
馬行き人行き自転車行きて、
しばし粉雪の風吹けり
絣合羽につまごはき
物噛むごとくたゝずみて
大売り出しのビラ読む翁
まなこをめぐる輻状の皺
楽隊の音からおもてを見れば
雲は傷れて眼痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤より暮るゝ
. . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
〔湯本の方の人たちも〕
湯本の方の人たちも
一きりついて帰ったので
ビラの隙からおもてを見れば
雲が傷れて眼は痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤から暮れ
硝子はひっそりしめられる
馬が一疋東へ行く
古びた荷縄をぶらさげて
雪みちをふむ
引いて行くの . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
〔まあこのそらの雲の量と〕
まあこのそらの雲の量と
きみのおもひとどっちが多い
その複雑なきみの表情を見ては
ふくろふでさへ遁げてしまふ
清貧と豪奢はいっしょに来ない
複雑な表情を雲のやうに湛えながら
かれたすゞめのかたびらをふんで、
さういふふうに行ったり来たりするのも
. . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
会食
互に呼んで鍬をやめ、
北上岸の夏草に
蒼たる松の影をかぶって
簡手造氏とぼくとは座る、
手蔵氏着くる筒袖は
古事記風なる麻緒であって
いまその繊維柔軟にして
色典雅なる葱緑なるを
ぼうぼうとして風吹けば
人はいよいよ快適である
僕匆惶と帽子をさぐり . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
保線工夫
クレオソートも塗り
飾りも済んだ電柱を
六本積んでトロを控へて待ってると
十時五分の貨物列車が
日向をごろごろ通って行き
一つの凾の戸口から
むやみに黒いぶちのある
仔牛が顔を出したので
まっさきに立つ詮太がわらひ
かしらもわらひみんなもわ . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
〔あしたはどうなるかわからないなんて〕
あしたはどうなるかわからないなんて、
百姓はけふ手を束ねてはゐられない
折鞄など誰がかゝえてあるいても、
木などはぐんぐんのびるんだ
日が照って
うしろの杉の林では
鳩がすうすう啼いてゐる
イギリスの百姓だちの口癖は
りん . . . 本文を読む
賢治が封印した詩稿群(「第三集 詩稿補遺」分)
会見
(この逞ましい頬骨は
やっぱり昔の野武士の子孫
大きな自作の百姓だ)
(息子がいつでも云ってゐる
技師といふのはこの男か
も少しからだも強靱くって
何でもやるかと思ってゐたが
これではとても百姓なんて
ひどい仕事ができさうもない
だまっ . . . 本文を読む