宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈一〇七一 〔わたくしどもは〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇七一    〔わたくしどもは〕          一九二七、六、一、
   わたくしどもは
   ちゃうど一年いっしょに暮しました
   その女はやさしく蒼白く
   その眼はいつでも何かわたくしのわからない夢を見てゐるやうでした
   いっしょになったその夏のある朝
   わたくしは町はづれの橋で
   村の娘が持って来た花があまり美しかったので
   二十戔だけ買ってうちに帰りましたら
   妻は空いてゐた金魚の壼にさして
   店へ並べて居りました
   夕方帰って来ましたら
   妻はわたくしの顔を見てふしぎな笑ひやうをしました
   見ると食卓にはいろいろな菓物や
   白い洋皿などまで並べてありますので
   どうしたのかとたづねましたら
   あの花が今日ひるの間にちゃうど二円に売れたといふのです
   ……その青い夜の風や星、
     すだれや魂を送る火や……
   そしてその冬
   妻は何の苦しみといふのでもなく
   萎れるやうに崩れるやうに一日病んで没くなりました
             <『校本宮澤賢治全集第六巻』(筑摩書房)より>
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《鈴木 守著作案内》
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 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
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 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。


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