スペイン語クラスで教材に使っていた絵本の著者から,原本を頂戴した。
『アルバロおじいさんとCOVIDの嵐』という題で,「二つの世界の間にある命と魂についての寓話」という副題がつけられている。
クラスで先生は, 1ページごとに絵の部分を貼りだし,先ずその絵からどんな物語を考えるかを受講生に話させ,次に原文を示すというやり方で,楽しく授業を進めてくれた。読み終わった後,読後感を書かせ,それを著者に送ってくれた。そのお礼に,本が送られてきたのである。小学校の授業のようだが,80歳を超える爺さん生徒は皆まじめにやった。
”マルティンは誕生日のお祝いに,父のミゲルから消防自動車のおもちゃをもらう。ついているはしごを伸ばして,二人は登っていくと雲の上に出る。そこには,コロナウイルスに感染して亡くなったマルティンの祖父のアルバロが待っていて,二人と話をする。やがて襲ってきた嵐でおじいさんから離され,二人は地上にもどる。夢であったのか実際にあったことなのか分からないままに,二人は家に入って,マルティンの誕生祝に集まっている人たちに,雲の上の経験を話す。みんなは大喜びで,誕生日を祝う。天上からそれを見ていたアルバロは,笑った拍子に入れ歯を落としてしまい,拾いに皆の前に現れ,大笑いとなる。”
アルバロさんは実在の人物で,その伝記が絵本の巻末に納められている。著者のミゲルさんはアルバロさんの息子で,マルティンさんは孫である。
この寓話は,恐らく不幸にして亡くなったお父さんをしのんで,お父さんに代わって自分自身を励ますために書いたものではないかと思う。
雲の上の会話で,アルバロは,COVIDのパンデミックを嵐に例えて,息子と孫に言い聞かせる。
「雲の上の世界にも,しばしば嵐が訪れる。怖いし,いろいろなものを吹き飛ばす。しかし,過ぎ去ると平穏が戻り,そこには新しい秩序が生じる。嵐はわたしたちの生活に存在するものとして受け入れれば,生命に必要な水のような有益なものをもたらしてくれると考えることもできる。COVIDのパンデミックは嵐のようなものだ。大勢の人を病気にし,死さえももたらす。しかし,悪いことだけではない。いろいろなことをわたしたちに教え,進む道を掃き清めてくれるものもある。嵐の間は,身を潜めて自分を守るのがよい。やがて雲や風とともに立ち去る。」
これは大切な考え方である。ウイルスは時により,否応なく蔓延する。人類にとってそれは受け入れざるを得ないものである。パンデミックを与えられた機会ととらえ,新しい知恵を学び,新しい価値観,秩序,希望を見出していくことの大切さを,アルバロさんは説いている。
わたしは,著者への手紙の中で,死後孫に訪ねてきて欲しいので,話の中で出てきた消防車がどこで買えるか教えて欲しい,と書いたが,返事には,お孫さんが来てくれるといいですね,とだけあった。