舟を編む(映画)
NHKのBSプレミアムで,映画『舟を編む』を見た。
2013年に公開された石井裕也監督による映画で,原作の三浦しをんさんの小説は,2011年に光文社から発行され,「本屋大賞」を獲得している。
わたしはこの小説を10年ほど前に読んでいるが,小説と同様に評判の高かった映画の方は初めて観た。
「舟を編む」とは言葉の海を航行する舟である辞書を編集するということで,映画は玄武書房という出版社における『大渡海』という中型の辞書編集の物語である。
1995年,長年辞書編集一筋で来た荒木光平が,妻の病気で出版社を辞めるところから,話は始まる。荒木の穴埋めに,馬締(まじめ)光也という社員がスカウトされてくる。名前だけでなく,性格までくそ真面目で無口・口下手の,この青年が映画の主人公である。
営業上の理由から,『大渡海』の編集が打ち切られそうになり,それを乗り切る話以外は特に大きな波乱はなく,馬締の下宿の大家さんの姪,香具矢への恋,辞書監修者の松本朋佑教授の病気を絡ませながら,映画は淡々と辞書編集の筋を追っている。
しかし,日々変化を遂げる日本語を解説する「今を生きる辞書」を目指す主人公をはじめとする関係者の情熱に,周辺の人たちが魅せられ,協力していく話の展開は,観るものを飽きさせない。
そして,編集開始から12年,ついに『大渡海』は完成する。だが,この辞書に命を吹き込んだ松本教授は,完成を待たずに他界する。
妻の香具矢とともに,松本教授の自宅を弔問した帰りに,馬締は教授がいつも眺めていた海を見つめ,香具矢に話しかけるところで映画は終わる。
原作者の三浦しをんさんは,執筆にあたって辞書編集の現場を丹念に取材されたという。それを反映して,映画では辞書を作り上げていく過程の凄まじさ,面白さを見ることができる。
一つの辞書を作るのに,短くて10年,長くて25年を要するという話がうなずける。
新しい言葉を探すために,合コンに教授が出席したり,若い女性たちが群れる場所で食事したりする。単語が一つ抜け落ちていることが見つかったことから,最初から照合をやり直すという正確さを追求する熱意には,厳しいものがある。辞書の紙質にも徹底的にこだわる。
松本教授から託された「恋」の語訳を,馬締は「ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。 / 成就すれば、天にものぼる気持ちになる。」と書く。「右」の語訳に,馬締は「西を向いた時の北側」と答え,松本教授の「10と書いた時0のある方」に皆感心する。
主演の松田龍平(馬締),宮崎あおい(香具矢)共に好演である。特に松田龍平はこの映画の演技で,数々の主演男優賞を獲得している。
松田教授の加藤剛,同夫人の八千草薫,大家の渡辺美佐子など,故人となった懐かしい名優たちに会うことができた。
余談だが,2008年に発行された『広辞苑』第6版,第1刷の「ヤーコン」の語訳に明らかな誤りがあったので,そのことを知らせたところ,編集部から丁重なメールをいただき,第2刷から訂正するとのことであった。
このところビデオに録り置いた邦画を続けて観た。まだ『おくりびと』が残っているので,楽しみにしている。(写真はいずれもテレビの画面を撮影)
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