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心より大事なもの

2015年12月27日 | 読書

 【2015読了】128冊目 ★★★
 『日本人の心はなぜ強かったのか』(齋藤孝  PHP新書)


 この書名の問いかけに対する結論は、結構「齋藤孝本」を読んできた自分には一定の予想はつく。しかし、それをどんな切り口で説明してみせるか、そんな興味を持てるところがある。副題として「精神バランス論」が挙げられ、読みだしたら、まさしくと思った。今、目の前に起こっている事象がすっきり見えた。

 「心」と「精神」に「身体(習慣)」も加えた三点によって、私たちの存在は成り立っている。


 「心」と「精神」、辞書で調べれば明らかに類語となろうが、著者は「基本的にまったく別物」と言い切る。端的には、心は個にあるもので、精神は共同体や集団によって共有されるものと区別する。そう考えたとき、現在の世の中で一番肥大しているものが何か、言わずもがなであろう。当然、他の二つが弱っている。


 「心の教育」という言葉を否定するわけではない。しかし、それは個の心を大事にしたり、個に寄り添って共感したりすれば、それで成立するわけではないことは自明である。精神、そして身体(習慣)こそが鍛えられなければならない。学校教育でも当然意識してきたことだが、現在の風潮は明らかに後退している。


 私たちは今、子どもに面と向かって「心より大事なものがある」と言えるだろうか。少なくとも悩みを抱えている者に対してぶつける言葉ではない。だから逆に言えば、かなり計画的組織的に、そして綿密にそうした下地を作っておく必要があるのだろう。精神と身体を鍛え、バランスを良くすることで心を強くする。


 「失われた精神文化」…これを取り戻すことは難しい。高度成長期に育った私の年代などは「失われた」と言うことも躊躇われる気がする。著者が示す「精神の鍛え方」の様々な方法によって、確固たる精神の在り方をしっかりと示さねば、子どもたちには当然伝わらないし、肥大した心の弱体化の歯止めはきかない。

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