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「時」や「場」がひらくとき

2025年02月18日 | 読書


 人気作家の名前がずらりと並んだ表紙に惹かれて、久々に短編集を読む。これも風呂場読書に最適だ。共通項を知らず『時ひらく』という書名に惹かれ手にとったが、舞台として「三越百貨店」が設定されていた。三越の持つ歴史、伝統や言い伝えが素材になりえるのはやはり物語性か。田舎者には縁遠いけれど。


 伊坂幸太郎は仙台在住であり、そこの三越を取り上げていた。4年間暮らした身であり親近感がわいた。主要人物として「フジサキ」「エンドウ」という他の百貨店の名が登場させてウイットに富んでいる。そんなこともあり六篇の中では、その『Have a nice day!』と、阿川佐和子の『雨上がりに』を面白く読んだ。


 東野の『重命る』はガリレオシリーズ。トリックは見事ながら、短編では深まらない印象があり物足りなかった。ほとんど会話のみで進行する恩田陸の『アニバーサリー』は分かりづらかったなあ。書名に即せば「時」がひらかなかった。小説とは言うなれば「時」や「場」を目の前に現わすこと。読みとれなかった。


 その先入観を持って読んだわけではないが『灰の劇場』も、久方ぶりの途中退場となる。「1」と「0」が章の番号として繰り返し出てくる構成。ノンフィクションとフィクションがないまぜになっているような…。しかし本編に続いた「文庫版 あとがき」と巻末短編「灰の劇場 0 +-」は読みきった。興味深かった。


 そこには本編が読書誌の連載であり、書くきっかけとなったある新聞記事の詳しい情報を執筆後に知り、その偶然と符合に驚いたことが記されていた。小説家の中で育てられ、養われる観念とは、やはり特定の現実と重ねられるから、作品として結実する。独白調の文体についていけず断念したが、縁がないと諦めた。


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