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桜と絵本と豆乳と

読書録14~「腹落ち」した本

2025年04月08日 | 読書
 今年1月、著者をEテレ「ハートネットTV」で見た。4年前に脳出血で倒れながら、リハビリを重ねAPU学長に復帰したその姿は、自分の意思と意志を今出来る手段で懸命に(いや自然に)伝えようとしていた。本物だけに感じる「気」が忘れられない。この一冊は倒れる前年(13冊も出版した年だ)に書かれている。



 今もって「教えること」に自分の興味が在るのは、かつての職業柄か。いや、人間は教えたがるものだし、「教育欲」(by斎藤孝)という語もあるくらいだ。何のためと自問してみても、結局価値を分かち合う行為の満足でしかない。肝心なのは、「何」を「どのように」伝えていくか。見いだせる価値はその点にある。


 「何」について、著者は「自分の頭で考える力」「社会を生き抜く武器」を挙げる。そのために必要な「社会常識」の知見は、今までいろいろな場で語ってきたキーワード「タテ・ヨコ・算数」つまり「昔の人の考え・世界の人の考え・エビデンス」の重視と言っていい。個別に持っている思い込みが振り払われた。


 「特別対談」が三つ設定され、そのどれもが面白い。中・高校の学校長、生物心理学者、教育学者というラインナップ。特に驚いたのは、動物界で「教育」と呼べる行為はわずか2つだけという点。教育とはかくも難しい。しかも「教育は、世代レベルでしか有効ではない」つまり、人間自身の進化は起こっていない。


 教育全般を扱いつつ、ビジネス書の面もあり精密な「マニュアル化」を強調している。ただそれは画一化を図るねらいではない。師と仰ぐ野口先生が雑誌増刊「学校運営マニュアル」を出版された当時、それは自分のバイブルでもあった。先駆者たちは分かりやすさという基盤を作り、そこから飛び立つ者を育むのだ。