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平均寿命まであと数日になって

2019年03月01日 | 読書
 藤原智美は芥川賞作家だが、小説より社会状況や教育に関する文章が面白く、何度となく読んでいる。世間的には10年ほど前に出版された『暴走老人!』が有名であり、今回も「暴走老人から幸福老人へ」という副題がついている。自分と同齢のこの作家は、序章の小見出しに「私の平均寿命は63歳だった」と書いた。


2019読了22
 『この先をどう生きるか』(藤原智美  文藝春秋)



 平均寿命の意味はご存知の方も多いだろうが、その年に生まれた子が何年生きるかを示すものである。だから今、その数値が80歳以上、2050年には100歳だと言っても、実は中高年にとってさしたる意味を持たない。最近は「平均余命」が一般的か。さて著者が示したデータは、厚生省が出した簡易生命表にあった。


 私もあと数日で63歳になる。改めて見回すと「人生90年」時代などと言われ、中高年や老齢者もそのために何かをしなければと追い立てられるような情報ばかりが目につくではないか。長寿が喜ばれた時代は過ぎた。高齢者社会に対応するため「自助努力」に励みなさい、といった風潮を、著者は強く疑問視している。


 老後や定年後の生き方について書かれた本を何冊か読んだ。さらに雑誌やネット等で目にする「第二の人生」的な内容も多い。前向き思考が多いのは当然でそれはそれで肯定するが、そうした他者の姿を「目的」のように捉えるのは危険だと指摘する。著者が強調するのは「行為の価値化」である。楽しむ過程にある。


 生活、活動を楽しむ日々を邪魔するものがいくつかある。最たるものは「虚栄心」である。世間から「寂しい老人と思われたくない」という考えに支配されるのは、競争と比較に苛まれてきた戦後生まれ世代に共通するのかもしれない。解き放つためのキーワードは「書く」「家事」「ユーモア」と自分なりに括ってみた。


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