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あなたは『セミ』を読みましたか

2019年06月12日 | 読書
 話題の『セミ』(ショーン・タン 岸本佐知子・訳 河出書房新社)を読んだ。こうした類の絵本を買うのは初めてなのかもしれない。どうしても言葉を追ってしまう自分を感じつつも、クライマックスと言えるページを開いた驚きは、さすがに様々な人が称賛する作家だと思った。岸本のリズミックな訳も洒落ている。


 単に人間社会の風刺と表してよいものか。今まで聞いたことのない作家だったけれど、興味が湧いて代表作と言われる『アライバル』という絵本も買ってみた。この絵本は、まさに「文字のない本」である。絵だけで構成していく話は幼児用で見た気はするが大人向けとしては記憶がない。しかも128ページである。


 内容は移民者の物語。題名のarrivalの意味は「到着、出現、到来、新顔、新参者、赤ん坊」である。今まで住んでいた土地を離れ、新しい場所での生活を作りあげていく過程が緻密な絵で表現される。帯にある翻訳家岸本佐知子の言葉が痛快で、的を得ている。「翻訳したくて、翻訳できなくて、地団駄をふみました。


 いったい「読む」とは何だろう、と改めて考えざるを得ない。表現する意味を問いかけたくなるのは、異質なものや慣れないものとの出逢いが喚起するからだろう。文化の異なる国に生まれ住む作家ゆえに、どれほど理解できたか自信はないが、それでも伝わってくる情感や思想は確かにあった。本の世界が広がった。