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すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

回文の絵本、こう読む

2022年07月15日 | 絵本
 「言葉遊び」の授業は持ちネタが多かったが、「回文」についてはまとまった実践をした記憶がないし、記録もないはずだ。ただトピック的には何度か扱った。回文の絵本は探せばきっと多くあるだろう。今まであまり意識しなかったが、先日この本を見つけ、短いし読み聞かせのときの前座(笑)として使えると思った。


『ぞうまうぞ・さるのるさ』(ことば・石津ちひろ え・高畠純) 
       ポプラ社 2014.8





 表紙裏(最初と最後の両方)に、「ぞう」と「さる」の回文がそれぞれ4文、6文載っている。これは中味のストーリーと直接関係ない内容である。最初は回文の説明に使えばいいかもしれない。じっくりと文字を追わせ、これから書かれている文章が、全部そういう形式になっていることを意識させるのに好都合だ。


 レストランでウエィターが「ぞう どうぞ」と山盛りになった草の一皿を出す絵から始まる。「ぞう・・・・・食うぞ」を主パターンとした食篇から「吸う」「買う」「舞う」「這う」「追う」という動詞を生かした展開へ持っていく。絵は単純で幼児でも楽しめる。しかし、回文という意識があると、また一つ味わい深い


 回文だと、どうしても読み方が一つ一つの字を追って半端になりそうなので、ここは繰り返してみればいいと思いついた。対象者の年齢にもよるが、「ぞう くさ くうぞ」とゆっくり棒読み、そして「象 草 食うぞ」と意味が通じる読みを重ねる。このパターンで進め、途中から意味読みだけにする手もあるだろう。

「もしかして」はきっかけワード

2022年07月05日 | 絵本
 先月から町内4つのこども園の読み聞かせをスタートさせた。選書をどうするかはいつも大きな課題だが、小学校と違って簡単につなげる大型TVがないので、やはり大型絵本が中心になる。ただ、冊数が限られていて、やはり通常サイズのしかも絵が大きい体裁の本を見つける必要がある。その最初の一冊がこれ。


『もしかして』(クリス・ホートン作  木坂涼 訳  BL出版) 

    


 赤、白を基調とした背景色なのですっきり見えるだろう。切り絵風にデフォルメされたサルは印象深い。物語の展開も繰り返しが用いられていて、調子もよく、これなら20人ぐらいまでなら大丈夫かと取り上げることにした。親や主人の言う事を守らない三匹の兄弟?サルという設定は、世界共通の古典的なものか。


 最初に「もしかして」と口を開いた者の思いが伝搬していく様子が楽しい。もしかして可能か、許されるか、大丈夫か…と自分たちの都合のいい方に思考が流れていき、そのあげく危機に見舞われるが、なんとかしのぎ、凝りもせずにまた同じような思考が頭をもたげてくる…歴史的にもよくあるパターンなのだろう。


 さて、読み聞かせで留意したい点を考えたとき…さほど難儀な箇所があるわけではない。しかしトラの登場は迫力が必要だし、一箇所絵本を持ち替える(縦にする)必要があるので、そこは大切だ。「もしかして」は日常語だが、想像力のもとになるきっかけのワードでもある。流行るくらいに(笑)印象づけられるか。

最も伝えたい「にゃーご」

2022年06月11日 | 絵本
 3年ぶりにこの絵本を取り上げてみた。図書館に勤め始めボランティアグループと一緒に学校へ出向いた2回目、初めての1年生で読み聞かせた大型絵本だ。物語性があり、ユーモア、やさしさの詰まっている名作だ。今、改めて読むと、キャラクター色が強く出ているので、自分好みだし声には合っていると思う。


『にゃーご』(宮西達也  鈴木出版)

 


 「ネコにおそわれないように」という先生の注意を聞いていない3人組のねずみ。ネコが出合いに発した大きな「にゃーご」という声を平然と受け止め、桃狩りに誘う。その言葉に釣られて行動をともにするネコの計算高さと迂闊さが入り混じる。桃狩りが終わり帰路で欲望を果たそうと「にゃーご」と叫んだのだが…。


 他者を信じて疑わない、そして他者の状況に思いを寄せる、素直であっけらかんとした3匹のねずみ。ネコとしての欲望はあるのだが、目の前に繰り広げられることについ応じてしまい、結局相手のやさしさにほだされていくネコ。一つ一つのセリフは、その心情が際立つように配置されて、しみじみとした魅力がある。

https://ugotosyokan.hatenablog.com/entry/2022/06/10/113558
 こんな感じで…

 今回はこども園の主として年長児が対象だ。キャラクターに沿った声の変化は効果的だろうし、十分に間を取りながら語っていきたい。「にゃーご」というそれ自体意味を特定できない叫び声は、どんな心も込められる。受けとめる側の姿勢によって他者との関わり方は変化するのだという、最も伝えたいことの一つだ。

100年後にあってほしい遠足

2022年05月10日 | 絵本
 表紙絵の宇宙飛行船と書名だけで、うきうきするような一冊だ。帯に「2019年は、月面着陸成功50周年記念イヤー」とあり、あのアポロ11号がすぐ瞼に浮かぶ。もう100年経たないうちに実現するだろうか。いやい、や感染症で現実の遠足もままならないし、世界情勢も不安だらけ…そんな気分を吹き飛ばしたい。


『みらいのえんそく』
 (ジョン・ヘア作 椎名かおる・文) あすなろ書房 2019.6




 「つきに ちゃくりく!」から始まるこの物語は、最終の宇宙船シーンを除き、全て月面上で展開される。どこの学級にもいそうな、一人後からとぼとぼついていくタイプの子。お絵描きをしている間に寝てしまい、その間に宇宙船は飛び立ってしまう。「しようがない」と、またお絵描きを始めるその子の周りには…。


 全体的には言葉(文字)が少ない。しかし、絵で十分にストーリーがつかめる。月に住む生物?は登場しても、怖さよりユーモラスさが強いし、ちょっとした心の絆が生まれたりする。これは見入ってくれる一冊だと思う。語る立場として悩むのは、宇宙人の声の調子だ。実際に聞いたことがないので、真似しようがない(笑)。


 作者にとって初めての絵本ということだ。アメリカにも「遠足」という概念があるのかとふと思った。和英辞典をみると、trip、outing、excursionがありどれでもいいようだが、最後のexcursionがふさわしい気がする。意味の中に「脱線」「逸脱」が入っている。遠足はやはり非日常の象徴である。そのことが恋しい。

いっぽんばしをわたり…

2022年05月09日 | 絵本
 昔どこかで見た記憶があるような、ないような。今、手元にあるのは2003年3月で36刷となっているので、人気本なのは確かである。124cm×184cmの小さな版、わずか24P。見開き左ページに「~~~わたる」と一行の文章があり、右が絵だ。幼い子に読み聞かせする形だろうと思うが、アイデアがひらめいた。


『いっぽんばし わたる』
 (五味太郎) 絵本社 1979.11

 

 「ぴょんぴょん わたる」とウサギの絵、「ならんで わたる」で鶏の親子の絵、ここはすうっと入るが「からんで わたる」で蛇が橋に巻き付く絵となる。ここで気づくのは、「ならんで」と「からんで」の韻を踏んでいることだし、絵が出てきてこそわかるという当然のこと。では、絵が待たされたら…と想像してみた。


 この版型だと教室では大型テレビに映すしかない。その制限を逆に活用する手があるのではないか。つまり見開きでPPTの取り込みをせずに、1ページごとにし、「タメ」を作って絵を見せていく。小学生ならばきっとこちらの方が楽しい。また「むりして わたる」の魚、「わざわざ わたる」の鳥の意味らにも気づく。


 初めに「いっぽんばし」の説明は必要だろう。最近ではお目にかかれない風景だが、テレビなどでは目にしているか。「げんきに おちる」がオチとなっている絵本だ。これを年度最初の一年生に見せることになるが、学校という一本橋をまずは無事に渡り切ってほしいと思う。もちろん、落ちても這い上がればいい。

おぼえていろよ、このお話を

2022年03月17日 | 絵本
 読み聞かせグループの大先輩から頂いた一冊。見開きの左に文章、右に絵という体裁で進められる。描画は水彩だろうか、黒と赤の二色でハーフトーンをうまく生かした雰囲気がある。表紙絵で想像できるだろう。題名にある「おぼえていろよ」は、前半からキーワードとして登場する。この気持ちの変化が山である。


『おぼえていろよ おおきな木』
 (佐野洋子/作・絵)講談社 2010.09


   


 話の主人公であるおじさんは、いつからここに住んでいるのか。家族はいたのか。「おおきな木」と「ちいさないえ」は、それまでどんな月日を重ねてきたのか…そんな想像をしてみることは悪くない。場面は「おれには、とんでもない木さ。」から始まるのだが、それまでの歴史が込められていると考えてみたい。


 周囲の人々や動物が感じる豊かさは、おじさんも享受していながら、不便で不都合なことばかりに目がいくようになり、「おぼえていろよ」が口癖になる。そしてとうとう…「おぼえていろ!!」と叫んで、行動にでる。その結果、今まで「おおきな木」が果たした役割、いや日々のおじさんの暮らしの支えを失う。


 これは少し気取った言い方をすれば、虚勢と喪失と再生の物語だなと思う。人が身近にある大切なモノに気づくために、喪失は避けて通れないかもしれない。しかしお話にはできれば復活があってほしい。春になったら、読み聞かせたい話の一つだ。どこで間をとるのか、子どもたちの顔を見ながら語りだしたい。

あなたの一日が世界を…

2022年03月12日 | 絵本
 見返しに著者メッセージが記されている。「この本を手にしてくださったあなたの一日が、よき日になりますように。そして、世界が平和になりますように。」ありがちに思える一節を読みつつ、今この時に限らず、世界に続く紛争の絶えない現状が、ほんの1ミリでも動くことにこの本は貢献できるか、と考えてしまう。


『あなたの一日が世界を変える  今日が輝く「10の問いかけ」』
(くすのきしげのり・作 古山拓・絵 花丘ちぐさ・英訳 PHP) 

 

 「旅人編」と「青年編」で構成される。旅人が世界中のいろいろな場で説く『あなたの一日が世界を変える』こと。それは彼が1人の日本人から教えてもらったという前置きがあるが、そのことは重要ではない。彼の言う内容は「やろうと思えば、たった今から、一人で始められること」なのだ。静かにやさしく語られる。


 様々な場面展開にもそれなりの訳はあるだろう。いろいろな仕事、場所、人数を設定しているのは「共有」「共感」してもらえるような工夫だ。伝える説得力が必要だが、ことさらの強調や仕掛けもなくただ淡々と事実を述べていく印象だ。ただし数字は丁寧に扱っている。低く落ち着いた声で読み進めていくしかない。


 その話を受けた青年が、周囲の人に「10の問いかけ」を教えてまわるのが後半だ。いわば自己啓発的な内容である。最初の問いが最後に再び繰り返されるのはより本質的な中味だからだ。それは「あなたは、今、笑顔ですか?」。しかしそれにしても…この10の問いを渦中のP氏に向けたとしても「もちろん」と言いそうだ。


 ということは、『あなたの一日が世界を変える』ことの原点が自分であるのは間違いないにしても、それが他に伝わら(影響をおよぼさ)ないかぎり進展は望めない。つまり「1/70億」から「2/70億」への路が「変える」ではないか。個の姿勢を正せば伝わる。それを信じ連鎖に結びつけるための「強さ」が求められる。

「おおブタ」を改心させるには…

2022年03月02日 | 絵本
 この絵本は、教職時代に読み聞かせに来校していたあるご婦人からいただいた。手持ちの本を貸したお礼だったかと思う。何度か校長室で雑談した記憶があり、聡明な方だったという印象が残っている。俗にいう転勤族で、興味関心をもって地域のサークルに加入して活動された。声もよく語りも上手だったなと思い出す。


『3びきのかわいいオオカミ』
(U・トリビザス文 H・オクセンバリー絵 こだまともこ訳 冨山房) 

 

 ほぼ7年、書棚に寝かせたまま(もっとも自分で目は通していたが)。長い間読み聞かせする機会がなかったが、たまたま4歳の孫相手に語ってみた。題名から想像できるように、一種のパロディ。「3びきのちいさなかわいいオオカミの兄弟」が「わるい おおブタ」に攻撃され続けるが、最後には…という展開である。


 母親から離れた兄弟が、最初に作ったのがレンガの家、次はコンクリート、そして鉄骨と、「強者」に壊されていく筋は古典的ではあるが、方法なども含めて、お話自体は「3匹のこぶた」バージョンよりずいぶんと現代的になっている。他に登場する動物たちのやさしさや会話はリズミカルでテンポがあり、童話らしい。


 パターンをもった会話が繰り返されるので、登場人物の気持ちにそって声調を変えていくことで面白さが引き出されるだろう。絵は写実的で、表情も豊かなのでじっくり見せたい。多人数相手の場合は、先のページ冒頭を読んでからめくった方が場面が効果的に見えて印象づけられる箇所がいくつかある。見定めたい。




 さて最後に兄弟たちがつくる「家」によっておおブタは改心する。美しく甘い香りを放つモノによって実現する。象徴的には、堅い防御だけでは相手は心を開かないということか。現実の世界情勢は、絵本の世界にある真実とあまりにかけ離れてしまった。「おおブタ」を改心させる手立ては何かと考える読後感である。

どれだけ豊かにそのスピーチを

2022年02月10日 | 絵本
 昨年末に某小学校5,6年生向けに「高学年だからこそ読める、高学年にこそ読んでほしい『絵本』のススメ」と題して資料を配った。表紙絵を取り込みながら6冊紹介した。来週他校で読み聞かせがあり、高学年対象なので、そこでも配布したいと見直した。1冊だけ差替えてラインナップに加えたのがこれである。


『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』
  (くさばよしみ編 中川学・絵  汐文社) 

  

 南米ウルグアイのムヒカ大統領の話題はTVで観たし、本の存在も知っていた。しかしきちんと読むのは今回が初だ。抽象的な語句は少しあるが、高学年ではあれば伝わるだろう。もちろん、大人が読んでも説得力ある内容だ。やや漫画チックな絵だが、演説のテーマを理解するための補助的な役割は十分果たしている。


 環境と貧困をテーマにした国際会議。小国の大統領の話に最初は関心を抱いていなかった参加者は、その話を聴き大きな拍手を送った。過度の物質文明が人類の危機を招いていることは誰しも語る内容ではあるが、自らの生き方で示しているというエネルギーが会場に響いたのだと思う。そのエッセンスをどう伝えるか。


 「演説を意訳して子ども向けの表現に変えています」と最終ページに小さく書かれてあり、どうしても説明が必要な語句はないし、その前後の文脈で想像できると言っていい。しかしだからこそ、丁寧に全体像を描くような読み方をイメージしたい。「スピーチ」の基本を振り返りながら、ポイントを定め読み込まねば…。


 まず多用している問いかけとそれに続く文章だ。普通は「間をとる」ことが強調につながるが、疑問形は訴えのスタイルでもあり、少し早めに畳み掛ける手法も効果的だろう。なんといってもキーワードの読み方だ。声の大小、緩急、アクセント…声で説得できるか。「命」「発展」「しくみ」「生き方」そして「幸せ」


その答えは、お前さんが…と

2022年01月29日 | 絵本
 この絵本と出会ったのは、去年2月に蔵書点検をしている時だった。点検はかなりスピードで機器操作し、一冊一冊に目を留めている暇はないのだが、この本は大判なので棚から引き抜く必要があったので、表紙が目に入った。題名と三木卓という訳者への興味があり、少しめくってみた。あっ読んでみたいと思った。


『3つのなぞ』
 (ジョン・J・ミュース作  三木 卓・訳 ) 





 いい人間になりたいと願うニコライ少年が、そのために何をしたらいいか、3つのなぞを持ち、それを問いかける作品である。その3つとは「いつが いちばん だいじなときなんだろう」「だれが いちばん だいじな人なんだろう」「なにをすることが いちばん だいじなんだろう」。哲学的な問いかけと言える。


 友達であるサギ、サル、イヌに問いかけ、それぞれが考えを述べるが満足しない。そこで訪ねたのは、カメのレオ爺さんである。畑を手伝った後に起こる嵐の中の出来事を解決したニコライは、翌日レオにもう一度問いかけ、レオはそれに対して「もうそのこたえは、おまえさんが出してしまっておる」と言い放つ。


 そこからのレオの語りが、この話のハイライトになる。なかみは今風に言えば「マインドフルネス」に近い。高学年以上が対象だろうが、その意味を捉えられるかどうかは個人差もあろう。とすればどう語りを説得力あるものにするか…ここは実力(笑)が試される。象徴的な「赤いカイト」と共に印象づけられるか。