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おぼえていろよ、このお話を

2022年03月17日 | 絵本
 読み聞かせグループの大先輩から頂いた一冊。見開きの左に文章、右に絵という体裁で進められる。描画は水彩だろうか、黒と赤の二色でハーフトーンをうまく生かした雰囲気がある。表紙絵で想像できるだろう。題名にある「おぼえていろよ」は、前半からキーワードとして登場する。この気持ちの変化が山である。


『おぼえていろよ おおきな木』
 (佐野洋子/作・絵)講談社 2010.09


   


 話の主人公であるおじさんは、いつからここに住んでいるのか。家族はいたのか。「おおきな木」と「ちいさないえ」は、それまでどんな月日を重ねてきたのか…そんな想像をしてみることは悪くない。場面は「おれには、とんでもない木さ。」から始まるのだが、それまでの歴史が込められていると考えてみたい。


 周囲の人々や動物が感じる豊かさは、おじさんも享受していながら、不便で不都合なことばかりに目がいくようになり、「おぼえていろよ」が口癖になる。そしてとうとう…「おぼえていろ!!」と叫んで、行動にでる。その結果、今まで「おおきな木」が果たした役割、いや日々のおじさんの暮らしの支えを失う。


 これは少し気取った言い方をすれば、虚勢と喪失と再生の物語だなと思う。人が身近にある大切なモノに気づくために、喪失は避けて通れないかもしれない。しかしお話にはできれば復活があってほしい。春になったら、読み聞かせたい話の一つだ。どこで間をとるのか、子どもたちの顔を見ながら語りだしたい。


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