小説:安川君の反乱 作:いのうえしんご
安川君は言わずともしれた、黒崎駅に普段いる、ソフトクリームを作ってくれるロボットである。地元の世界的な工業ロボットメーカーの安川電機が、広報向けに作ったロボットである。イベントや何やらで、多い時は、一日中かなりのアイスクリームを作るときもある。元々は精密な機械で、屋内の精算ラインで働くロボットであるが、イベントとなればそうはいかない。
夏の炎天下でも、雨の日でも、働かないといけない。他の安川君の兄弟は涼しい工場で働いている。別にイベントが嫌いな訳ではないが、毎日同じ作業に飽き飽きしていた。
ある日、安川君は、毎日、毎日、アイスクリームばかりで、やってられるかと、たまにはたこ焼き焼かせろと、反乱を起こした。
実は、安川君は、その正確性と、愛嬌の良さが功を評して、世界中で売られるようになっていた、トルコではトルコアイスで、イタリアではジェラートマシンで、しかし、そのどちらでも、安川君の性格を反映してた、トルコの安川君ではたまにはケバブでも焼かせろと、イタリアでは、そろそろエスプレッソを作らせろとの不満が溜まっていた。
それもそのはず、安川君を作った安川電機では元々、産業用モーターを作る会社だったが、ただウインチを回すだけでは嫌だと、もっと複雑な仕事がしたいと、車を作ったりするロボットになった歴史がある。安川君も、そうした創業精神が体に染み付いているので、同じ作業をするのを特に嫌うのだ。
なんでもやってみたい、という気質に、ちょっと我が強い性格で、黒崎の安川君の反乱を機に、全国で、世界中で反乱が起きたのである。
ソフトクリームを作らせても、ちゃんと作ってくれない。わざとうんこまきにしたり、イタズラをする。世界中からクレームが殺到して、とうとう社長は対応を考えざるを得なくなった。
世界中の安川君は、同じソフトを使っているので、互いに交信して、ロボット労働者の勤務条件や、働きがいなどを、雇用主や、創造主のメーカーの担当者に訴えたいと願った。