ニコラスのギターが呼び覚ました疫水神の魂は、依りしろの少女の身体をすっかり支配していた。唇からは相変わらず不吉な歌が洩れ、加えて長い腕を振って人を近寄せまいとする。迂闊にそばに寄ることもできない。“水返しの歌”を繰り返す水神と先の水神の声音も、徐々に翳りつつあった。フアンの声にはまだ力があるが、しだいに疫水神の歌声が3人のそれにまさってゆく。このままでは──皆が感じたときだった。部屋に、白銀の光が差した。「いつか役に立つかもと、この歌を教えておいてよかったわ、フアン」その言葉とともに、白銀の髪を輝かせる女神エストがそこにいた。「母さん!」フアンが思わず歌を止める。空気が軋む。女神エストが言い放つ。「歌を続けて」「あなたが、なぜ」代わりにニコラスが問う。女神は婉然と微笑んだ。「親孝行、かしら」
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