猟師の合図に応えて、猟犬がほら穴へ勢いよく飛び込んでいく。確信があった。丸々とした野兎が、このほら穴に逃げ込むのを見たのだ。さして深そうなほら穴でもなし、きっと間もなく愛犬が、獲物をくわえて意気揚々と姿を見せるだろう。五分、十分……犬は戻らない。不安がきざす。十五分、二十分……もう待てなかった。思ったより穴が深かったのか、予期せぬ何かが潜んでいたのか。愛犬を見殺しにはできない。覚悟を決め、ほら穴に踏み込む。後悔はすぐに襲ってきた。どれほど長く放置されていたのか。至るところ蜘蛛の巣やら綿埃やらに溢れ、進むごとに粉塵が舞い上がる。狩どころではない。巨大な蜘蛛の巣に絡まっていた猟犬を助け出し、埃まみれで猟師は逃げ出した。静けさを取り戻したほら穴から、「やれ、驚いた」野兎の変化(へんげ)を解いた牧の神が、「兎いぬかと穴に入りゃ、兎いもせず用もなや、埃ばかりが取れてくる……」陽気な小唄を口ずさみながら現れた。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新記事
最新コメント
- sneed1984/新渡定型詩2024
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第3話
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第2話
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第2話
- Yopi/竜の唄を継ぐもの 第2話
- 新渡 春/新・指先のおとぎ話『雲と雨と』
- Yopi/新・指先のおとぎ話『雲と雨と』
- sneed1984/新・指先のおとぎ話『光の面影』
- Yopi/新・指先のおとぎ話『光の面影』
- sneed1984/新・指先のおとぎ話『沃野を潤す』
カレンダー
バックナンバー
ブックマーク
- goo
- 最初はgoo