SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新・指先のおとぎ話『月は見ていた』

2019-02-27 12:57:06 | 書いた話
月は、今日も大きく輝いている。心なしか、いつもより大きく見える気がする。そういえば、なんとかムーン、っていうんだっけ。ふだんより大きく見える現象。ま、わたしには関係ないんだけど。どうせあの月も、もうすぐ見えなくなる。お医者さまも言ってた。「残念ですが、いまの医学ではおそらくあと一年ほどで……」あと一年で光が失われるなら、いまのうちにもっとちゃんと見ておこう。「無理しちゃだめよ」友人たちは言う。でも好きなんだもの、月。太陽より全然好き。きっと美しい女神さまが住んでるんだわ。……なにかしら。唄が聞こえる。「窓辺に月がやってきて、子どもらを眺めてた。月はジプシー女、ばんざい、王の子孫たち……」軽やかな衣ずれの音。誰かに優しく抱かれた気がして、目を開ける。──とても、よく見える。目の病なんか、なかったみたいに。「女ですもの、わたくしだって」月神がふくよかな丸顔をほころばせ、そっと空に帰っていった。
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