ただ、セシリアの言い分ももっともなのだ。
舞踊手としての名声が広まるにつれ、エスペランサが妻として、母として過ごせる時間は少なくなっていった。そして、夫のティトは、いわばエスペランサのマネージャー。子どもより、仕事だった。
結局、エスペランサの子どもは、マヌエルとセシリアのふたりきりだった。
早くからギターの才能を見せたマヌエルはしかし、家庭を持とうとはしなかった。ギタリストとして人気と尊敬を集めながら、弟子を取ることさえせず、孤高を貫いた。
一族の目は、否応なく妹のセシリアに集まった。結婚を考える歳になったある日、セシリアは長老に呼び出された。
「言いたいことはわかるな、セシリア」
長老の口調は、厳しかった。
「おまえの母親は、外の男と結婚した。格段の踊りの才があったから許したが、娘のおまえは、家を守ってくれねばなるまい」
うら若いセシリアは頷くほかなかった。
「それがわたしの父さん、リカルド。10人兄弟の末っ子だったから、養子に来るのも簡単だったのね」
ベロニカの述懐のあとを、ニコラスが受け取る。
「なのに、長女のきみがまた、外から来たぼくと結婚した……」
「もう、そんな時代じゃないのにね」
「でも、セシリアもリカルドも、ぼくによくしてくれるけどね」
「母さんも父さんも、あなたを気に入ってるから。もちろん、あなたのギターもね」
それでも時折、若い日のわが身を省みて、娘に愚痴をこぼしたくなるものらしい。
「ティトおじいちゃんも、こういう気分になったりしたのかしら」
「ぼくよりもっと都会の人だから、苦労も多かったんじゃないかな」
ニコラスは、ティトに考えを馳せた。
舞踊手としての名声が広まるにつれ、エスペランサが妻として、母として過ごせる時間は少なくなっていった。そして、夫のティトは、いわばエスペランサのマネージャー。子どもより、仕事だった。
結局、エスペランサの子どもは、マヌエルとセシリアのふたりきりだった。
早くからギターの才能を見せたマヌエルはしかし、家庭を持とうとはしなかった。ギタリストとして人気と尊敬を集めながら、弟子を取ることさえせず、孤高を貫いた。
一族の目は、否応なく妹のセシリアに集まった。結婚を考える歳になったある日、セシリアは長老に呼び出された。
「言いたいことはわかるな、セシリア」
長老の口調は、厳しかった。
「おまえの母親は、外の男と結婚した。格段の踊りの才があったから許したが、娘のおまえは、家を守ってくれねばなるまい」
うら若いセシリアは頷くほかなかった。
「それがわたしの父さん、リカルド。10人兄弟の末っ子だったから、養子に来るのも簡単だったのね」
ベロニカの述懐のあとを、ニコラスが受け取る。
「なのに、長女のきみがまた、外から来たぼくと結婚した……」
「もう、そんな時代じゃないのにね」
「でも、セシリアもリカルドも、ぼくによくしてくれるけどね」
「母さんも父さんも、あなたを気に入ってるから。もちろん、あなたのギターもね」
それでも時折、若い日のわが身を省みて、娘に愚痴をこぼしたくなるものらしい。
「ティトおじいちゃんも、こういう気分になったりしたのかしら」
「ぼくよりもっと都会の人だから、苦労も多かったんじゃないかな」
ニコラスは、ティトに考えを馳せた。