占い婆のもとから戻ったあと、ティトはすぐにでも結婚式を挙げたがった。だがエスペランサはその前に、どうしても港町へ行ってきたいと言い張った。
「いったいどうして、エスペランサ」
事情がよく呑み込めないティトは、腑に落ちない表情で、恋人に問いただすのだった。
「ぼくらの結婚は、吉だと言われたじゃないか。仕事だって山のように待ってるし、港町には結婚したあとだって行けるだろう」
しかしいざとなると、エスペランサの意志はことのほか固かった。
「わたしは知りたいのよ、ティト。この髪飾りをくれた人のこと」
エスペランサは、しばらくしまったままにしてあった貝の髪飾りを、占い婆にもらった櫛とともに髪に挿していた。白にも薄紅にも見える貝と、白銀の櫛とが、エスペランサの黒髪に映えて輝く。旅の守りにするように、と占い婆は言ったが、エスペランサにとっては早くも、お守り代わりの品となっているようだった。
「もしも母さんにゆかりのある人なら、結婚式にも来てもらいたいし」
「ま、盛大になるぶんにはいいがね」
「……お願い、ティト」
結局、ティトが折れた。
残る問題は、ソニアをいかにしてエスペランサに同行させるかだった。ただでさえ集落を離れたがらない母を、どうやって遠い港町まで連れていこう……。
もちろん、ソニアの返事は「否」だった。言葉を尽くしても彼女の気持ちは動かず、行動的なエスペランサも考えあぐねた。いっそ諦めて、自分だけで行ってこようかと思案しだした、ある朧月夜。寝つけずにいたエスペランサのもとに、ソニアが来て言った。
「エスペランサ。……髪飾りを見せとくれ」
「どうしたの、母さん」
「……夢を見たのだよ」
「いったいどうして、エスペランサ」
事情がよく呑み込めないティトは、腑に落ちない表情で、恋人に問いただすのだった。
「ぼくらの結婚は、吉だと言われたじゃないか。仕事だって山のように待ってるし、港町には結婚したあとだって行けるだろう」
しかしいざとなると、エスペランサの意志はことのほか固かった。
「わたしは知りたいのよ、ティト。この髪飾りをくれた人のこと」
エスペランサは、しばらくしまったままにしてあった貝の髪飾りを、占い婆にもらった櫛とともに髪に挿していた。白にも薄紅にも見える貝と、白銀の櫛とが、エスペランサの黒髪に映えて輝く。旅の守りにするように、と占い婆は言ったが、エスペランサにとっては早くも、お守り代わりの品となっているようだった。
「もしも母さんにゆかりのある人なら、結婚式にも来てもらいたいし」
「ま、盛大になるぶんにはいいがね」
「……お願い、ティト」
結局、ティトが折れた。
残る問題は、ソニアをいかにしてエスペランサに同行させるかだった。ただでさえ集落を離れたがらない母を、どうやって遠い港町まで連れていこう……。
もちろん、ソニアの返事は「否」だった。言葉を尽くしても彼女の気持ちは動かず、行動的なエスペランサも考えあぐねた。いっそ諦めて、自分だけで行ってこようかと思案しだした、ある朧月夜。寝つけずにいたエスペランサのもとに、ソニアが来て言った。
「エスペランサ。……髪飾りを見せとくれ」
「どうしたの、母さん」
「……夢を見たのだよ」