ティトの解釈に、占い婆が異を唱える様子はなかった。
「わかった。どこに行っても、エスペランサをちゃんと集落に連れて帰ると約束する。それでいいだろう」
エスペランサとティトは、とりあえず占い婆が結婚の許しを与えたことに安堵して、庵を去ろうとした。先にティトが表に出、エスペランサも続こうとしたそのとき、
──お待ち。
占い婆が、彼女を呼び止めた。心なしかその声が優しい色合いを帯びたように、エスペランサには感じられた。
「え?」
──貝の髪飾りをもらわなんだか?
エスペランサは、大きな瞳を見開いた。
「もらったわ。昔、港町で」
胸が高鳴る。
「何かご存じなの? あの人のこと──」
貝の髪飾りを託していった、母親そっくりの男。母親は知らないと言ったけれど……
──訪ねてごらん、もう一度あの町を。
「え、わたしが?」
──そう。できれば母親も連れて。
空中に、ひらりと舞うものがあった。エスペランサは、つと受け止める。蝶のようにも見えたそれは、白銀にきらめく櫛だった。
「まあ、きれい」
──持っておゆき。あの髪飾りとこの櫛が、そなたらを守ってくれよう。
庵の外で、そろそろ痺れを切らしたらしいティトの声がした。
「エスペランサ!」
──お行き。
「……わかったわ」
ティトの元へと、エスペランサは急ぐ。
小さな庵には、ふたたび静けさが戻った。
──これでよろしいか、泉のお方。
占い婆の、恭しく改まった声音。無人のはずの庵に、確かに誰かが頷く気配があった。
「わかった。どこに行っても、エスペランサをちゃんと集落に連れて帰ると約束する。それでいいだろう」
エスペランサとティトは、とりあえず占い婆が結婚の許しを与えたことに安堵して、庵を去ろうとした。先にティトが表に出、エスペランサも続こうとしたそのとき、
──お待ち。
占い婆が、彼女を呼び止めた。心なしかその声が優しい色合いを帯びたように、エスペランサには感じられた。
「え?」
──貝の髪飾りをもらわなんだか?
エスペランサは、大きな瞳を見開いた。
「もらったわ。昔、港町で」
胸が高鳴る。
「何かご存じなの? あの人のこと──」
貝の髪飾りを託していった、母親そっくりの男。母親は知らないと言ったけれど……
──訪ねてごらん、もう一度あの町を。
「え、わたしが?」
──そう。できれば母親も連れて。
空中に、ひらりと舞うものがあった。エスペランサは、つと受け止める。蝶のようにも見えたそれは、白銀にきらめく櫛だった。
「まあ、きれい」
──持っておゆき。あの髪飾りとこの櫛が、そなたらを守ってくれよう。
庵の外で、そろそろ痺れを切らしたらしいティトの声がした。
「エスペランサ!」
──お行き。
「……わかったわ」
ティトの元へと、エスペランサは急ぐ。
小さな庵には、ふたたび静けさが戻った。
──これでよろしいか、泉のお方。
占い婆の、恭しく改まった声音。無人のはずの庵に、確かに誰かが頷く気配があった。