271828の滑り台Log

271828は自然対数の底に由来。時々ギリシャ・ブラジル♪

設計の見直し(タイヤブランコ)

2007-06-14 06:12:57 | 遊具
先日の足立区のブランコ落下事故は各地に緊急点検を呼び起こしています。月曜日の定例設計会議でもこの案件が取り上げられました。枯れた製品も定期的に見直す必要があります。今回はフェイルセーフとして組み込んだステンレス製のスプリングについて検討しました。

火曜・水曜は群馬県立産業技術センターに通いました。これから持ち込まれるであろう経年変化した製品が非破壊検査が可能かどうか確認するためです。出来れば分解することをしないでそのままの状態でどこに磨耗・亀裂が生じているか見たかったのです。しかし肝心のシャフトがケース・球面軸受け等に覆われているので、エックス線・CTでもそれを捉えることが出来ないことが分かりました。結局、分解して点検することになりました。容易には分解できない構造になっているのでこれも大変です。
群馬県立産業技術センターには50tfの引張試験機があることは知っていましたので、新品の破壊試験をお願いしました。ベテランの職員の方が、材質と寸法をざっと見て「無駄でしょう!」と仰いました。この材質とサイズでは壊れるはずがない、ということです。
それはそうなんですが、引張試験機にかけたと時、どこから破壊されるか見てみたい。怖いもの見たさ、ですね。引張試験機に製品をかけるためには治具が必要です。製品より強度が落ちるならば試験の意味がありません。がっちり作る必要があるのです。

さてこのブランコが通常の使い方で加わる力をざっと計算してみます。大雑把でも見通しを持って試験に臨むのと何も考えないで現場に立ち会うのとではまるで違います。見える現象も見えなくなります。

ブランコの底面は地上から0.4mの高さにあり、鎖は1.7mとします。鎖は通常3本で、人間も3人とします。全体の質量は200kgと見積もれば十分でしょう。本当はブランコの支点から微小な質量を距離の2乗について積分した「慣性モーメント」で計算するのが正しいのですが、200kgの質点で計算する値よりも小さくなります。最悪の場合を大雑把に見積もるのです。
ブランコの触れ角度をθ=60度とします。基準からの高さhは
h=1.7(1-cosθ)=0.85m
位置エネルギーは
mgh=1666J(ジュール)になります。
摩擦を無視して(最悪を考えて)これが最下点で運動エネルギーになります。
mv^2/2=1666
これをvについて解いて
v≒4(m/s)を得ます。
質量mの物体が半径rの軌道を運動する時の遠心力は
mv^2/r ですから、遠心力は3920N(ニュートン)になります。
最下点ではこれとmgの合力になるのです。5880Nですね。
5880Nは重力単位では600kgfで、3倍の力、ということになります。
壊れるならば最も力の大きい最下点と考えています。

さてフェイルセーフとして選んだのはd=3mmのステンレスワイヤーロープです。冒頭に掲げた試作品がそれです。何だか頼りなさそうに見えますが、カタログで見る破断強度は660kgf(≒6.5kN)です。ワイヤーロープは沢山の素線から出来ていて、これらの素線が一度に切れることはまずありません。ワイヤーロープ自体がフェイルセーフとも考えられます。回転機構の動きに悪影響があっても困ります。
またシャフトが破断するときは新たな界面が出来ることと同義です。この界面が出来るためには大きなエネルギーが必要になるのです。
製品の破壊検査をやるので、同時にワイヤーロープの引張試験も行いたいと考えています。私の予想ではワイヤーロープが破断する前にアルミのクランプの中でワイヤーがずるずると緩むような気がします。これもエネルギーの消費です。

いずれにせよ、試験結果を待って正式な設計変更を行いたいと考えています。

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8 コメント

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私なりに考えたことを (デハボ1000)
2007-06-14 23:53:35
>引張試験機にかけたと時、どこから破壊されるか見てみたい。

管理者さんのこの表現では、興味本位のようにみられるんではないかなあと思いますが、私は趣旨はこのように考えます。
要するに「壊れ様を見る」というのは製品の信頼性で必要ですよね。同じ壊れを起こすにしても部品飛散と単なる亀裂とは違う。また予想されたとおりに破損するかは確認しておかなければ技術の蓄積は図れない。そのことは工業試験所の職員(研究職)では理解は難しいなあという経験も私はしていますが、どうでしょうか。
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試験の意味 (271828)
2007-06-15 05:51:19
デハボ1000さん おはよう

開発当時の記録にはケース(ダクタイル鋳鉄)の破壊試験の結果が残っていました。個々のパーツの強度は評価してあったのですが、製品としての強度を再確認したいというのが今回の試験の目的です。
私の書き方が「興味本位」と取られても仕方が無い表現になってしまいましたが。
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いらぬ心配でしょうが (niwatadumi)
2007-06-15 23:57:28
こんばんは。
写真を拝見して思ったことを書きます。
震災時に備えて高架道路橋の桁は「落橋防止装置」と称してチェーンやワイヤで連結されました。そのチェーンやワイヤが健全であることは勿論検査確認しますが,取り付ける根元の現場溶接部も当然フェールセーフの一翼を担っていますから非破壊検査対象でした。
さて,試作品のワイヤより,付け根のボルト止めされたあたりのほうが頼りなさげに見えます。この辺は大丈夫なのでしょうか?
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心配 (271828)
2007-06-16 09:10:25
niwatadumiさん

コメントありがとうございます。ご指摘の件、改めて検討いたします。

普通、会社のサイトでは開発過程での失敗は書かない、書けないものですが、私は失敗も書きたいと考えてブログを始めました。一連の「滑り台の帯電防止対策」もその例です。
先日の投稿で紹介した『構造の世界』の末尾にはこんな文章で終わっています。

「設計が製作図面の段階まで進み、その構造物が重要なものであるなら、次にすべきことは、その構造についてひたすら心配することである。そしてそれは極めて当を得たことなのだ。航空機にプラスチックの部品を取り入れる仕事にたずさわっていた頃、筆者は毎晩、毎晩、その設計が心配で眠れなかった。そしてこれらの部品がどれもトラブルの種にならなかったのは、心配のお陰だと確信している。事故を起こすのは自信であり、それを防ぐのは心配である。だから出てきた答えは繰り返し検討してもらいたい。それも一度や二度ではなく、何度も、何度も。」
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壊れる箇所を想像する (SUBAL)
2007-06-17 11:55:59
私のところで実施しているブリッジコンテストでは、作品が完成に近づくと「どこから壊れるか想像してみなさい」とアドヴァイスします。そうすると、勝手な(時にはとんでもなく筋違いな)議論が始まります。「最弱リンク説」から行くと、最弱の箇所を補強すると、強度は増加しますが、さらに荷重が上がると次の弱点から壊れるわけです。「どこから壊れるか見てみたい」という関心は、安全にかかわる技術に携わる人にとって必要不可欠だと思っています。
ブリッジコンテストの競技台を作るときにワイヤーロープを使うのですが、私もアルミのカシメの部分が心配になり引張試験をしてみましたが、ワイヤーロープの強度の範囲ではカシメは壊れませんでした。応力の伝達が出来ていればよいことになりますね。
この写真を見て言わせていただければ、ワイヤーロープの取り付け部が、水平部材のところになっていますが、これでは取り付け部の曲げの力がかかります。垂直部材に取り付けるのは何か支障があるのでしょうか?
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アイボルト (271828)
2007-06-19 08:23:48
SUBALさん おはよう

コメントありがとうございます。本来ならばアイボルトやスイベルで固定するべきなのでしょうが、ボルト穴がベアリングのケースに近すぎるのでボルトを締めることが不可能です。
それで工場の端材を探したのですが見つかりません。親子2代にお世話になっている工場に行って角鋼から取り付けボルトを切削して貰うことにしました。本当は6角鋼があれば尚良かったです。

>アルミのカシメの部分が心配になり引張試験をしてみましたが、ワイヤーロープの強度の範囲ではカシメは壊れませんでした。
そうでしたか!これもこの眼で確かめるつもりです。貴重なアドヴァイスありがとうございます!
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少し感動しました (デハボ1000)
2007-06-20 01:18:46
>会社のサイトでは開発過程での失敗は書かない、書けないものですが、私は失敗も書きたい

大きな会社ほど、失敗隠蔽の傾向が強いと思います。問題点が多かった開発経過を本篇の末尾に列挙した(とはいえ本文30ページに対し1枚だけ)だけで、怒られた事があります。そして「これを書くなら査定が低くなることを覚悟してだな」という話だったので。「その後工程(設計部門など)が同じミスをしかねないからですから」と啖呵を切ったことがあります。逆に私は給与生活者に向かなかったのでしょうが、技術者として間違いは言ったとは思っていません。
とはいえ、所属していた会社Grは世間では、「失敗事例の開示」では国内でも先駆なんだったそうで・・・経営者がこの発言を率先垂範されることに非常に感動しました。
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失敗 (271828)
2007-06-21 04:02:11
デハボ1000さん コメントありがとうございます。

このブログは私の会社の社員の皆さんも閲覧していることを前提としています。失敗を隠さず、悪い情報も直ぐに伝わるような組織・人間関係を構築したいと願っています。
滑り台の開発過程での失敗はそれを克服できた実績があるので精神的な負担はそれほど感じていません。失敗を語ることは同時に技術の根幹を語ることでもあります。
私の師は「出来る学者ほど自分の失敗や馬鹿さ加減を話せる」と教えてくれました。小粒なヤツは隠蔽するのですね。
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