271828の滑り台Log

271828は自然対数の底に由来。時々ギリシャ・ブラジル♪

超高分子量ポリエチレン

2007-03-23 15:30:51 | 遊具
「摩擦係数を測る」で取り上げた滑り台の滑面は超高分子量ポリエチレン(Ultra high molecular weight polyethylene ,UHMWPE)と言いますが、あまり一般的な素材ではありません。しかしいわゆる新素材ではなく、その歴史は古いのですが性質が特殊なために一般消費者には身近な存在ではないのです。

ポリエチレンの歴史も大変興味深いのですがさしあたり、第二次大戦前に高周波の絶縁材として英国のICI社で開発され、テフロンやハイオクタンの航空機燃料と共に重要な戦略物資だったことを記憶しておこう。当初は高温高圧で作られる低密度ポリエチレンが主流でした。戦後1953年頃、マックス・プランク研究所のチーグラーらは常温低圧下である種の金属塩化物と有機アルミニウム化合物を触媒として枝分かれのない、巨大分子量、高融点、直鎖分子構造のポリエチレンの製造に成功した。高密度ポリエチレンの誕生です。200万~600万の巨大な分子量になったものが超高分子量ポリエチレンなのです。

UHMWPEは私たちが日常手にするPEと比べるととても硬く、これが滑り台には好適な性質の一つになっています。熱可塑性の樹脂に分類されますが、巨大な分子量のために流れず、射出成形は一般的ではありません。素材から機械加工されることが多いのです。
機械的強度についてはまた別の機会にお話しますが、何と言っても滑り台向きなのは摩擦係数の低さと耐摩耗性が優れていることです。メーカーのカタログやサイトでは「テフロンに次いで低い」と書かれていますが、その理由については詳しく書いてくれません。

化学はとっても苦手なのですが、直感的理解を求めて調べてみました。良く滑るとは物体を滑らせたときに互いに付着しないことです。筏義人さんの『表面の科学』では表面自由エネルギーという術語で説明しています。そして次のような表が掲げられています

高分子表面の自由エネルギーによる分類(一部略)

分類        エネルギー    表面特性      高分子材料の例
          erg/cm^2
極低エネルギー   15-20       撥水性       フッ素系高分子
低エネルギー    30-35       疎水性       ポリエチレン
中エネルギー    35-50       極 性       ナイロン
高エネルギー    50-60       親水性       セルロース
極高エネルギー   60-75       水 性       グラフト化表面

「二つの平滑な表面が接触し、相対運動しているときに摩擦が起こる。もし両面の間に空気しか存在しなければ、両者間の分子間力が小さいほど摩擦係数は低い。したがって、表面自由エネルギーの低い材料ほど、残余の分子間力も低いため、摩擦係数は低い。ただし、圧力によって変形して接触面積が高くなるようなゴム状材料は、見かけの摩擦係数が高くなる。」

ご説ごもっともなのですが、まだ直感的ではありません。それで困った時のブルーバックス。広中清一郎さんの『新しい摩擦の科学』を紐解く。

「低密度ポリエチレンは、分子内に多くの枝分かれした長い鎖(分枝鎖という)や短い鎖を持っています。これに対して、高密度ポリエチレンは、直鎖状の分子内に、枝分かれした短い鎖をわずかしか持っていません。
このように、同じプラスチックでも、構造が異なると、熱的性質や機械的性質などが変化し、それが摩擦の性質に反映してくるのは、大変興味深いことです。」

うーん、なかなか良い。そしてポリエチレンとテフロンの分子モデルが掲げてあります。ここではWikipedia(英語版)から借用した絵で示します。

これがポリエチレン

これがテフロン

炭素に結合しているのが水素とフッ素の違いがありますが、幾何学的な構造は大変似ています。

「これらの分子構造をミクロに見ると、F原子はH原子よりかさが高く、しかもC-F結合の距離はC-H結合の距離より少ないのです。従ってポリフッ化エチレンは、F原子がC鎖のまわりを隙間無くうめつくした構造をしているのです。これらの分子がならんだポリフッ化エチレンの表面は、稠密で滑らかといえます。」

とりあえずこのあたりで納得し、熱力学をやってから真の理解に迫ろうか。テフロンは滑り台には使えないけれど。

  ↓ポチッと応援お願いします!
にほんブログ村 科学ブログ 技術・工学へ

(07/03/26追記)
昔メーカから頂いた資料を発掘しました。摩擦と分子構造の対称性について触れています。但し出典は明らかではありません。

「ポリエチレンとポリスチレンを比較してみるとPEは主鎖を軸として、上下対称的で、外側H分子先端はC軸に平行的かつ直線に近いが、PSはC主鎖に対して上下非対称的で、側鎖の先端は主鎖に対して大きな凹凸を示す。この場合、各分子が隣り合せた場合のせん断移動に対する抵抗は、PSのように非対称の方が著しく大きくなり摩擦抵抗は大きくなる。」
ジャンル:
ウェブログ
コメント (2)   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
« 滑り台の運動方程式を積分する | トップ | 同じ本を2冊持っている(その... »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
諸説紛々 (デハボ1000)
2007-03-23 16:33:09
ポリエチレンの摩擦係数が低いのは、「局部的加圧接触を起こしたとき、微少な溶解が始まる。その温度が比較的低いことにも一因がある」という見解もあります。
もちろんテフロンのメカニズムとは全く違いますね。
凝着 (271828)
2007-03-24 09:21:51
デハボ1000さん こんにちは

ポリエチレンの摩擦係数を約0.3、ステンレスのを0.5(≒tan26度)とすれば滑り台の設計は出来ますが、やはり根本のところを知りたかったのです。

見かけの接触面積に比較して真実接触面積は極めて小さいので「局部的加圧接触を起こしたとき、微少な溶解が始まる。その温度が比較的低いことにも一因がある」という見解には頷けます。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

遊具」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事

トラックバック

福王台3丁目「富士見公園」の高分子量ポリエチレン (袖ケ浦在住非破壊検査屋)
この日はたまたまブックオフ袖ケ浦店へ行きたいとhiwa嬢が希望したので、それでは、と自転車を漕ぎ出したのはいいけれど、一駅先の福王台3丁目は結構な海抜なのでさすがに疲れました。開店の10時まで時間潰しに訪れたのが、ブックオフの裏手にある「富士見公園」 。名前...