https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171223-00053748-gendaibiz-bus_all
「私はステージ3の大腸がんと診断され、がんを摘出する手術に併せて人工肛門を造設しました。がんの転移はその後みられなかったのですが、手術の後も、抗がん剤によって手足のしびれが強く、家事や仕事が思うようにできなくなりました。
先生と相談した結果、2級の身体障害者認定を受けたのです。『がんになったら200万円くらい用意しといたほうがいい』と友人に言われていたこともあり、治療費に対する不安はつきまといました。
入院や手術にかかった費用は52万円にもなりましたが、高額療養費制度で10万円に抑えることができました。
通院には割引料金で乗車できるタクシーを利用しています。公共料金は水道が年間約2万円、NHKの受信料は年間約1万3000円程度の割引です。
家族が乗る車の自動車税も年間3万円減免され、ほかにも使える制度は全面的に利用しています。現在も定期検査などで年間約10万円前後の医療費がかかるため、減免制度はありがたいです」
このように語るのは、東京都に住む石川由美子さん(68歳、仮名)だ。がんに罹ると、莫大な医療費がかかることは間違いない。抗がん剤や放射線治療のなかには、1~3割負担の健康保険ではとても賄いきれないものも少なくない。
2人に1人ががんになると言われている時代、その潜在的な不安から、民間の保険に入る人も多いだろう。
もちろんおカネの準備方法として保険は有効な手立てだが、がん患者の家計を助成する制度は公的なものだけでも数多く存在することは見落とされがちだ。
しかも、そのほとんどはこちらから申請しないと補助が得られず、全額自己負担が原則。あとから申請しても戻ってこないものもある。
後悔しないために、たとえいま罹っていなくてもがんになったら「払わなくていいおカネ」を知っておくことが大切だ。
冒頭の石川さんがどのような制度を利用し、これほど多くの助成を受けることができたのか、順を追ってみていきたい。
まず多くのがん患者が利用することになるのが、高額療養費制度と医療費控除である。
高額療養費制度は、年収や家庭環境に応じて、5万7600~10万円を超えた医療費を事後に取り戻すことができる、費用が高額になりがちながんの治療では不可欠な制度だ。
たとえば高度な技術を要する腹腔鏡手術なら、3割負担でひと月30万円以上かかることもあるが、この制度を利用すれば1回の手術を10万円程度に抑えられる。
最終的に戻ってくるとはいえ、数十万円の医療費を支払う余裕がない場合は「限度額適用認定証」を術前に申請しておけば問題ない。窓口での支払いが制度適用後の金額になっているはずだ。
だが、がんと診断されたのが20歳以上65歳未満で公的年金をきちんと納付していて、がん治療が長期化することになった場合、この障害年金を受けられる可能性が出てくる。
自身もがん治療を経験してきたファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は、障害年金について次のように解説する。
「この年金は、医師にがんと診断された日から1年6ヵ月が経過した段階で、日常生活に著しい制限を受ける状態になっていると受給できます。
基本的には、大腸がんの手術をして人工肛門を造設するなど、手術の結果身体に変化が生じ、QОL(生活の質)が低下する場合に支払われます。
ただ実は、抗がん剤の副作用から生じる倦怠感や末梢神経のしびれ、出血といった内部障害を抱えていても、障害年金の受給資格はあるのです」
実際のところいくらくらいもらえるのか。おおよその場合、2級の受給認定で年間77万9300円と併せて子どもの人数に応じた加算分を受け取ることができる。
「この障害年金に関しては5年前までさかのぼって申請することができますが、年金の支払い状況や医師からの診断書など、必要書類をきちんと確認していないと年金事務所の窓口で申請を受け付けてもらえないケースも多いです。
社労士と相談して手続きを進めるのも、確実に給付を受けるためには有効な手段です」(前出・黒田氏)
障害年金は日本年金機構による年金システムの一種。これに加え、がんを発症したときに厚生労働省が定める障害者認定を受けられる場合がある。
「障害者認定は障害年金と同様に、自力での生活が困難になるほど身体に重大な変化が起こった場合に受けられるものですが、障害年金と認定基準は異なります。
障害年金は働けるかどうかが判断基準になり、障害者手帳の交付はどのような障害が生じているか、具体的な状況を示すものです。現状の制度では、胃の摘出や乳房の切除といった手術だけで申請することは難しい。
ですが、肛門がんの手術で人工肛門を造設したり、咽頭がんで咽頭部を摘出することになるほどの変化が身体にあれば認定されます」(国立がん研究センター東病院がん相談統括専門職の坂本はと恵氏)
しかし、たとえば腫瘍を切除することによって運動器官の活動に支障をきたすようなケースや、抗がん剤の副作用で身体が思うように動かせず車いす生活を余儀なくされるようになり、その状況が改善される見込みがないと判断されることもある。そのときには、障害者認定を受けられる可能性がある。
障害者認定を受ければ、補助や控除の枠はぐっと広くなる。所得税や相続税の控除だけでなく、通院に使用するという名目であれば、自動車税や自動車取得税も大幅に安くなる。
東京都の例でいえば、自動車税なら年間で最大4万5000円が減免される。自動車取得税に関しては、課税標準額300万円に税率(新車ならば3%)を乗じた額が減免される。
詳しい計算は省くが、320万円の新車を購入したときの自動車取得税を9万6000円とすると、このうち9万円が減額されるので非常に大きい。
自家用車で通院するのは体力的に厳しいという人は電車やバス、タクシーなどを利用することになるが、これらにもそれぞれ割引が適用される。
JRでは、身体障害者1級および2級の手帳を交付されている人のほとんどは、同乗者とともに乗車料金が半額になる。バスは運営会社によって制度に若干の違いがあるが、おおむね半額で乗車できる。
また、タクシーについては、乗車が割引になる助成券を配布している地方自治体もあるので確認してみてほしい。
交通機関に加えて、公共料金や公共施設の割引も受けられることは盲点になりがちだ。まず水道料金については、障害者手帳の交付を受けると基本料金が50~70%割引になる場合がある。
また、意外なところではNHKの受信料にも割引が適用される。世帯主が1級または2級の障害者手帳を持っている場合、受信料は半額になる。衛星放送も契約している場合、受信料は年間2万5320円なので1万円以上も支払わなくて済むのだ。
こうした障害者割引の制度は、多くの民間企業も導入している。たとえば携帯電話各社は、障害者手帳の被交付者に基本料金の割引制度を設定している。NTTドコモの場合、基本料金から月額1700円が割引になる。
最後に、がんによって要介護認定を受けられる可能性があることも大きなポイントだ。障害者認定を受けられなくても、遠方に住む家族の高速バスや新幹線料金が割引になる。
そのうえ、航空会社各社も本人および介護者の割引制度を用意している。要介護者本人だけでなく、介護をする家族にもこの割引は適用される。距離や時期によって割引率は異なるが、最大で40%前後安くなる場合がある。
ほかにも助成を受けられる制度は多くある。