https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201206-00211182/
ryaku
武漢では海鮮市場での流行前に感染者が発生していた
新型コロナウイルスは2019年12月に武漢市で発生し、武漢から世界に広がっていったというのが一般的な認識かと思います。
ご存知の通り、武漢で流行が認知された当初は海鮮市場に関連する症例が多かったということで、ここで売られていた野生動物が感染源でありヒトに感染するようになったのではないかという推測もありました。
しかし、この海鮮市場とは全く関連がない症例が2019年12月上旬の時点で複数報告されており、この海鮮市場が新型コロナウイルスの起源ではない可能性が指摘されています。
この図で水色が「海鮮市場と関連のある症例」で緑色が「関連のない症例」です。
12月以前からすでに海鮮市場とは関連のない症例が複数報告されていたことが分かります。
では結局当初流行の発端と考えられていた海鮮市場は何だったのかと言うと、流行初期にみられた一つのクラスターだったのではないかという見方もあります(doi: 10.3390/jcm9020488.)。
ではいつ頃から新型コロナウイルスはヒトの間で広がっていたのでしょうか。
結論から言うと「まだ分かっていない」のですが、私たちが初期に認識していたより前には世界に広がっていた可能性があります。
アメリカで2019年12月に献血された血液検体から新型コロナ抗体が
アメリカで最初に新型コロナの症例が報告されたのは2020年1月19日ということになっています。
これ以前にアメリカに新型コロナが侵入していたのかを検証するために、2019年12月13日~2020年1月17日までにアメリカ赤十字社に献血された7,389人ぶんの血液検体の新型コロナの有無について調べたところ106検体(1.4%)でIgG抗体が陽性となり、このうち追加検査ができた90検体のうち80検体ではより特異度の高い中和活性も確認できたとのことです。
今回検査された血液検体のうち新型コロナ抗体が陽性であったのはカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州、マサチューセッツ州、ウィスコンシン州、アイオワ州、ミシガン州、コネチカット州など複数の州をまたぐ住民の検体であったとのことであり、特定の地域だけでなくアメリカの広い範囲で2019年12月から2020年1月中旬までの間に新型コロナが広がっていたことを示唆する研究です。
また最も早い時期に新型コロナ抗体が検出されたのは、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の住民から2019年12月13日から12月16日までに収集された検体からのものであったとのことです。
これらの結果からは、中国の武漢市で大流行が起こっていた2020年1月中旬までに、爆発的とは言えないまでもアメリカでもすでに散発的に感染者がいた可能性があります。
ただし、かぜの病原体であるヒトコロナウイルスなどの他のコロナウイルスに対する抗体を拾っている可能性も完全には除外できません。
なお、アメリカで2019-2020シーズンにインフルエンザが猛威を奮っていた時期に「インフルエンザではなく実は新型コロナウイルス」なのではないかというデマが拡散していましたが、その後の調査によって2月下旬までに新型コロナウイルスはアメリカに侵入していたものの、限定的であったことが分かっています。
ヨーロッパでも2019年12月の時点で新型コロナウイルスが見つかっている
イタリアでは、2019年12月にミラノとトリノから収集された排水から新型コロナウイルスが検出されたと報告されています。
新型コロナウイルスは患者の便中からも検出されることが分かっており、排水からウイルスを検出することで地域における流行を早期に検知できるのではないかと考えられています。
日本でも山梨県の排水から新型コロナウイルスが検出されたことが報告されています。
イタリアのミラノ、トリノの2019年12月の排水から新型コロナウイルスが検出されたということは、この時期にすでにイタリア国内で新型コロナウイルスのヒト-ヒト感染が起こっていたことを示唆します。
イタリアではその後、大規模な流行が起こっており、その発端がこの2019年12月の感染例かどうかまでは分かりませんが、アメリカと同様にイタリアでも2020年12月時点で感染者がいた可能性がありそうです。
また、フランスでも2019年12月当時に原因不明だった肺炎症例の保存してあった鼻咽頭拭い液の検体を調べたところ新型コロナウイルスが検出されたという症例報告が出ています。
この患者は直近の海外渡航はなく、フランス国内で感染したと考えられており、フランスでも2019年12月の時点でヒト-ヒト感染が起こっていた可能性があることになります。
スペインからは、なんと2019年3月のバルセロナで収集された排水から新型コロナウイルスが見つかったとのことです。
バルセロナ大学の研究室が2018年1月から2019年12月までの排水を解析したところ、2019年3月12日の排水から見つかったようで、これ以外の排水はすべて陰性だったそうです。
検出されたとする排水のリアルタイムRT-PCRを見てみると、Ct値というウイルスの増幅回数が40近いので偽陽性の可能性も残る気がしますが・・・本当だとすると武漢での流行が始まる9ヶ月も前にスペイン国内で新型コロナウイルス感染症の症例が存在したことになります。
日本でもっと前に新型コロナが広がっていた可能性は?
これまでの研究結果からは、アメリカやヨーロッパでは2019年の時点で新型コロナの感染者が存在した可能性があるようです。
では日本でも2019年時点で新型コロナウイルスが国内に侵入していた可能性はあるのでしょうか。
日本で最初に新型コロナ患者が報告されたのは2020年1月16日です。
この第一例の患者さんは1月6日に武漢市から日本に帰国しており、1月14日に診断されています。
これよりも前に新型コロナが日本国内で広がっていたという事実は今のところ確認されていませんが、中国との往来が最も多い国の一つである日本に、ヨーロッパよりも先に新型コロナウイルスが侵入していた可能性は十分にあるでしょう。
2019年の時点では未知の病原体であるため診断する方法もなく、また9割以上の人が回復する感染症であることから、実際に国内に侵入していたとしても見逃されていたでしょう。
しかし、2019-20シーズンのインフルエンザ・肺炎における超過死亡に大きな変化がなかったことなどからも、少なくとも大規模な流行が起こっていたということはないと考えます。