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日本人は知らない、世界中の金持ちが「アート」を買う本当の理由

2018-12-14 | Art

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値段はどれくらい上がる? 答えは年率平均「約9%」

世界中の主要なオークションでのアートの売買動向を集計しているアートプライス・ドット・コムの価格指数によると、2000年以降にいわゆるファインアートの価格は年率平均8.9%のペースで上昇してきています。この上がり幅は、リーマンショックを経験した株式・不動産といったリスク資産や債券などと比較しても優秀な成績です。

もちろん、個別の作品により大きく価格動向は異なりますし、アートの売買にはほかの金融商品をはるかに上回る手数料がかかることが一般的なので注意しなければなりませんが、上記のように特に最近アート価格の高騰が目立つ背景には、リーマンショック後の経済低迷から脱するために米国や欧州、日本など主要先進国で軒並み前例のない規模の金融緩和が行われたことがあります。

世の中に出回るお金の量が増える一方、投資対象となるファインアートの数には限りがありますから、価格は上昇トレンドとなることが自然ということです。

知り合いのアートギャラリーの方に話を聞くと、バブル期に投機の象徴のように言われた日本の大富豪や企業のゴッホやルノワールといった印象派への数十億円~100億円以上の投資も、いまではどの作品も200億円以上出しても購入したいという希望者が何人もいる状態のようです。バブルの象徴である高値掴みと見なされた名画への投資でも30年の時を経て数倍に価格が上昇しているほど、世界中で高い人気を誇る印象派の巨匠たちの作品たちの価格は長い期間で堅調に上昇してきています。

35年で2000倍以上、10年で300倍以上になる作品も!

価格が高騰しているのはルネッサンス期や印象派の巨匠の作品だけではありません。上記のバスキアに代表されるように現代アートの作品も大きく上昇しています。

バスキアは17歳のころから書いていたNYのスラム街の壁にスプレーで書いていた作品が有力な画商の目に留まり、本格的な制作活動を開始し、巨匠アンディ・ウォーホルとの共同制作も行いますが、ウォーホルの死をきっかけとして深刻な薬物依存となり、1988年に27歳の若さで亡くなります。

 

皮肉なことにアーティストが若くして亡くなると作品の供給がそれ以上されないことで価値が高騰しますが、バスキアはその最たる例で存命中の1983年に1.5万ドル(約170万円)で購入された絵画“Flesh and Spirit”は今年5月のサザビーズのオークションでなんと3,070万ドル(約34.7億円)で競り落とされました。35年で2000倍以上という価格上昇率です。

日本人の現代アーティストでも2008年に村上隆さんの「マイロンサムカウボーイ」というフィギュアが約1500万ドル(約17億円)で売れたことは大きなニュースになりましたが、こちらのフィギュアの価格は10年で300倍以上に高騰しています。

また、最近では草間彌生さんの作品がアジアを中心として高い人気を誇っており、2005年に初めて彼女の作品が100万ドル(約1.1億円)で売れたところから、ここ数年は10億円近くで複数の作品が売れるなど10年間で10倍以上の価格高騰で推移しています。

 

マーケットを主導するのは「アジアのコレクター」

このように以前から高値で取引されてきたルネッサンス期や印象派の巨匠たちの作品以外の、現代アーティストたちによる作品も高値で取引されるようになってきていますが、それを主導しているのは中国本土の人を筆頭としたアジアのコレクターたちです。

アジアのコレクターたちの存在感が大きくなってきたことで、これまでニューヨークとロンドンがダントツだったアートオークションの売上においても、香港が両都市に追いつきつつあります。

アジアの現代アーティストの作品としては上記にある村上隆さんの17億円が最高額でしたが、13年10月に中国の現代アーティストである曾梵志氏の「最後の晩餐」が2330万ドル(約26億円)をつけて大きく更新し、昨年12月には19世紀~20世紀にかけて活躍した画家である斉白石氏の「山水十二屏」という書画が約9.3億人民元(約150億円)で競り落とされ、こちらも中国の美術品の史上最高値を更新するなどとどまるところを知りません。

こうした中国人を中心としたアジアの現代アートのコレクターたちは、これまで欧米からの評価で価格が高騰することが一般的であったアート価格の形成に変化をもたらしています。前述した村上隆や草間彌生に加えて、奈良美智、白髪一雄といった日本の現代アーティストの作品がアジアのコレクターの間で人気となったことで、各作家の貴重な作品の価格はここ数十年で数百倍となって数億円に達しています。

「自分の感性に合うアーティスト」を深堀りする

アジアの新世代コレクターの特徴としては、気にいったアーティストの作品ばかりを深堀りするという特徴もあげられます。

欧米のコレクターが時代やアーティストを問わず自分の好きなテイストの作品をアートの進化の文脈に沿って網羅的に買おうとする一方、アジアの特に現代アートのコレクターたちは気に入ったアーティストの作品を歴史上の重要性に関係なく多数買うというトレンドが見られます。

 

例えば、草間彌生についてはフィリピン人のカマチョ夫妻が有名で、04年に初めて彼女の作品を見て気に入り、05年からシンガポールをベースに作品を購入し始め現在では100以上の作品を収集していますが、現在の価値は購入時の平均して20~30倍になっているようです。

日本でも東京で銀行員をしていた黒河内俊さんが20年以上かけて収集してきた奈良美智の作品が13年にサザビーズの香港のオークションにかけられ、35点の作品が合わせて5億円以上で競り落とされるなど、自分の感性にそって収集した作品がアジアのコレクターの間での人気の高まりとともに大きく価値が上昇するということが起きています。

アート投資というと大富豪やセレブだけのものと思われがちですが、一般の人でも入手できる数万円~数十万円の作品が時と共に高い評価を受けるようになり、数百倍・数千倍に価値が上昇するというダイナミズムがあることも魅力です。

知られざるアートの保管庫「フリーポート」

欧米では資産を何世代に承継していく上でアートというのは常に重要な投資対象でした。欧州の王族や貴族、大富豪といった資産家たちは長い歴史において度々戦争や巨大な災害に見舞われてきましたが、単位質量当たりの価値が極めて高く、運びやすい美術品は資産を長く承継していく上でうってつけの資産だったのです。

そうした美術品の魅力を凝縮したような施設がシンガポールにあり、先日視察しました。それは「フリーポート」と呼ばれる施設で、この施設の運営会社は他にもスイスにも同様の施設を持っているらしいですが、シンガポールのチャンギ空港のプライベートジェットターミナルから、イミグレでのチェックなくアートや金塊といった資産を持ち込めます

日本ではその存在はほとんど知られていないでしょう。

どこの政府に知られることもなく売買できる仕組み

シンガポール政府も、所有者を問うことなくフリーポートに資産を持ち込むことを認めています。

そのフリーポートは建物全体が1メートル以上のコンクリートでおおわれ、建物に入るまでに生体認証など7つのチェックを受けなければならず、内部も1つの扉で3.5トンもある分厚いドアで仕切られています。

さらに、マシンガンを持った私設の警備兵が守り、火災に備えて内容物にダメージがない窒素ガス噴射装置が張り巡らされているなど、あらゆるセキュリティを備えた究極の金庫となっています。

地下には冷蔵庫大のボックスに100億円以上の金塊が納められるようになっており、このボックスが1部屋に数百も並び、さらにそうした部屋がいくつもある様子は壮観でした。

 

一度、資産を持ち込めば所有者の情報は一切外部に出ませんから、どこの国の政府に感知されることなく高額の資産を売買できます。シンガポールのフリーポートには大手オークション会社のクリスティーズがフロアを所有しており、上記のダヴィンチのサルバトール・ムンディも、展示される予定のルーブルアブダビ美術館に移送する前に、現在はこちらに所蔵されていると担当者が話していました。

権力者の資産隠しや脱税の温床となると考える人も居るかもしれませんが、スイスにある施設は100年以上の歴史を誇り2度の世界大戦など数々の悲劇の中、所蔵されている資産を守り抜いてきました。

ナチス政権により迫害を受けたユダヤ人に象徴されるように、資産家にとって時の政権によるリスクからも守ってくれる施設です。

シンガポール政府としてもこのような施設があることで、低い税率や少ない規制を求めて流入した富がさらに増大し、活発に取引されることにつながると期待しているのでしょう。略

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