シェアします。
すべての偽装は「卵」に通じる
河岸 宏和 :食品業界を知り尽くした男
N君:で、今回は「ヤバすぎる『卵』の裏側」ですか。「ヤバすぎる外食の『卵事情』」の前に、まずは
「卵全体の裏側」を取り上げるわけですね。河岸さんは卵メーカーに10年勤めて「卵のプロ」
とも呼ばれていますが、いつも「すべての偽装は『卵』に通じる」と、外食でも卵はめったに
口にしませんよね。
河岸:だって、卵業界の「ごまかし」はひどいからね。日本人は1人平均、年300個以上は食べる
卵が大好きな国民のうえに、生卵で食べる習慣まであるのに。スーパーに買い物に行っても
卵は老若男女、必ず買う食品のひとつでしょう。
N君:卵の特売日には、朝から行列ができるスーパーもありますよね。
河岸:でも、そもそもその光景に大きな問題が潜んでいる。卵が売れる割合は、平日を「10」とすると
週末は「30」。それが卵の特売日になると「100」も売れる。一般的にスーパーは週末のほうが
にぎわうけど、特売日になると平日の10倍も卵が売れる。
N君:それだけ聞くと、「特売日だし、当然かな」と思いますが……。
河岸:問題は特売日に並ぶ卵は、どれも賞味期限が新しいこと。鶏は毎日卵を産むわけだよね。
特売日に合わせてたくさん産んだりはしない。毎日ほぼ同じ数だけ産まれる。だけど、
特売日には同じ賞味期限のものが、平日の10倍も並んだりする。何かおかしいと思わない?
N君:確かに、同じ賞味期限の卵が特売日だけ10倍も並ぶのは、いかにも変ですね……。
もしかして、賞味期限を“偽装”しているってことですか?
河岸:そもそも卵の賞味期限って、どうやって決まると思う?
N君:それは「卵を産んだ日から何日後」で決まるんじゃないですか。
河岸:いや、そうじゃないの。卵の賞味期限は「パックされた日から何日後」で決まるの。
N君:えっ? じゃあ古い卵でも、今日パックしたら、賞味期限は今日から何日後になるわけ
ですか? つまり「同じ賞味期限」の卵でも、「産卵日が同じとは限らない」ということですか?
河岸:そのとおり。それは卵に限らないけどね。スーパーで売られている食品にはそんなものが
たくさんある。たとえば、半年前に作って冷凍したアジの干物だって、スーパーで今日、
解凍すれば、その日が「製造日」になり、その日を基準に賞味期限が決められる。何日も
前に作ったお弁当も、店でラベルを貼れば、そのラベルを貼った日が「製造日」になる。
N君:なぜ、そんなことが許されるんですか?
河岸:「解凍すること」「袋にラベルを貼ること」「パックに詰めること」も、法律ではすべて「最終加工」
と見なされ、「製造日」になるから。その日を基準に、賞味期限が決められる。そう法律で
決まっているから、法律違反でも何でもない。
N君:すごい理屈ですね……。『スーパーの裏側』の帯の裏に「えっ? そんなことまで合法なの?」
とコピーを載せた理由は、それなんですね。
ベストセラーになった前作『スーパーの裏側』の帯裏。スーパーの「合法的偽装」に加えて、卵の
偽装についても30ページにわたってたっぷり解説しています!
河岸:ほかにも、スーパーの「合法的偽装」には、売れ残ったトンカツを「カツ丼」に“リサイクル”
したり、売れ残った刺身やハムを“再パック”して今日の日付で出し直す「使い回し」もある
けどね。詳しくは『スーパーの裏側』に書いたとおり。
卵の賞味期限=「産卵日」ではなく「パックした日」で決まる
N君:卵に関しても同じで、「卵をパックに詰めた日」から、賞味期限が計算されているんですね。
河岸:そのとおり。特売日に平日の10倍、同じ賞味期限の卵が並ぶ理由がここにある。卵は毎日
ほぼ同じだけ産まれるけど、それを保管しておいて、特売日に合わせてパックするんだ。
だから賞味期限が新しい卵が、平日の10倍、店先に並ぶことになる。
N君:中には古い卵も混じっているわけですね。それを生で食べると考えると、ちょっと違和感が
ありますよね……。
河岸:卵の生食については、もうひとつ別の問題もあるけどね。
N君:「外食では極力、卵を食べない。とりわけ生の状態では絶対に食べない」というのが河岸さん
のスタンスですが、外食で卵を食べない理由は何ですか?
河岸:卵の生食については、鮮度の問題に加えて、もうひとつ「サルモネラ菌」の問題もあるからね。
すべての卵はサルモネラ菌に冒されている危険性があるの。
N君:高級卵やこだわりの卵でも、同じようにサルモネラ菌のリスクがあるんですか?
河岸:そのとおり。消費者が普通に買える卵で「この卵は100%絶対安全」と言い切れるものはない
N君:じゃあ、卵は食べると危険ということですか?
河岸:そんなことはないよ。仮にサルモネラ菌がいても、75度で1分間加熱すると死滅するから、
しっかり加熱した卵なら大丈夫。
N君:生卵や半熟の卵はどうですか?
河岸:加熱しなくても、産まれてすぐ10度以下で保管すれば、仮にサルモネラ菌がいても60日間は
食中毒レベルまでは増殖しない。でも、36度で保管すると、1日で食中毒が起きるレベル
まで増殖する。
N君:なるほど、「きちんと温度管理されている卵を買う」のが重要ということですね。
河岸:冷蔵販売されていても、店に運ばれるまでに常温だったら意味がないから、「冷蔵『輸送』、
冷蔵『保管』、冷蔵『販売』」の3つが必要不可欠ということ。いずれにせよ、卵を常温で販売
している店なんて論外だよ。
N君:スーパーでも、常温で卵を売っている店と、冷蔵販売している店の両方がありますよね。
前作『スーパーの裏側』がベストセラーになり、『週刊ポスト』や『SPA!』でも大きな記事に
なったおかけで、冷蔵販売のスーパーがだいぶ増えた気もしますが。
河岸:確かに増えたけど、まだ一部だよね。「卵の常温販売は非常に危険」ということをぜひ消費者
だけでなく、販売者も知ってほしい。卵の温度管理について、あまりにも日本人は無頓着
すぎるよ。
幼い子どもや高齢者は、サルモネラ食中毒で命を落とすことも
N君:外食でいえば、調理場や厨房で、卵を常温で置きっぱなしにしている店はすごく多いですね。
河岸:お好み焼屋とか、すぐ隣で火を使っている店でも、その隣に置きっぱなしにしている店がある
よね。信じられない。そんな店、食のプロから見れば、論外中の論外だよ。
N君:僕も一度、お好み焼を食べたあと、すごい腹痛に襲われましたが、でもサルモネラ食中毒という
証拠はないわけですよね……。
河岸:そこが卵特有の難しさだよね。同じ卵かけご飯をみんなが食べたとしても、サルモネラ菌の
卵に当たったのは、自分だけかもしれない。常温で置きっぱなしにしていたとしても、みんなが
繁殖するわけじゃないし。
N君:そこが集団食中毒とは違うところですね。逆に言えば、だからこそ原因追及が難しく、運悪く
当たってしまった人は泣き寝入りするしかない、と。
河岸:泣き寝入り程度で済めばいいけど、幼い子どもやお年寄りは、サルモネラに当たって命を
落とすこともあるわけだからね。
N君:8歳の男の子や9歳の女の子が、卵かけご飯を食べて、サルモネラ中毒と見られる症状で
亡くなったというニュースもありましたよね……。今年も、サルモネラ中毒で亡くなった70代
女性の裁判で、「生産業者に責任あり」と約4500万円の支払いを命じた判決もありましたよね
河岸:きちんと温度管理がされていない卵を、しっかり加熱せずに食べることには、それくらいリスク
がある。そのことはぜひ知ってほしい。もちろん、むやみに恐れる必要はなくて、さっきも言った
ように「冷蔵『輸送』、冷蔵『保管』、冷蔵『販売』」している卵なら、まず安心できるけどね。
卵の「殻の色=鶏の羽の色」って知ってました?
河岸:卵でいえば、「色」についての誤解も多いよね。消費者が知らないことをいいことに、メーカー
や流通がうまくやっている。
N君:卵の色っていうのは、卵の「殻の色」や「黄身の色」ですか?
河岸:そう。だって、「赤玉(赤い卵)のほうが、白玉(白い卵)よりちょっと高級」と思っていない?
N君:えっ、そうじゃないんですか!? 赤玉のほうがおいしそうだし、実際、値段も高く売られて
いませんか?
河岸:消費者が「赤玉は白玉よりちょっと高級」と勝手に誤解してくれているから、その誤解に
合わせて高く値段をつけているだけ。実際は「卵の色=鶏の羽の色」だから。
N君:えっ? 卵の色って「羽の色」なんですか。
河岸:そのとおり。白い鶏は「白い卵」を産み、赤茶の羽の鶏は「赤茶の卵」を産む。
N君:そうですか、栄養とは何の関係もないんですね……。
卵の「黄身の色=エサの色」って知ってました?
河岸:それに卵の「黄身の色=鶏が食べたエサの色」ってことも意外にみんな知らないよね。
N君:えっ? 「エサの色」が「黄身の色」になるんですか?
河岸:そうだよ。エサに米を食べさせたら黄身が白っぽくなるし、ホウレン草を食べさせたら緑っぽく
なる。
N君:「昔の卵は黄身が濃かった」と言うじゃないですか。あれはてっきり、昔のほうが栄養価が高
かったからだと思っていました。
河岸:昔は、主なエサが草だったから、黄身の色が濃かったの。でも消費者の大半は「黄身の色は
濃いほうが栄養があるしおいしい」と勘違いしているから、鶏にパプリカとかを食べさせて、
無理やり黄身の色を濃くしているんだ。
N君:パプリカって、あの香辛料のパプリカですか?
河岸:そうだよ。それをエサに混ぜて、鶏に食べさせている。今のエサはトウモロコシが主流だから、
どうしても黄身が白っぽくなる。だから、パプリカを混ぜて、色を濃くしているんだ。
N君:なるほど、卵は普段よく食べるのに、何も「裏側」を知りませんでした……。では、「いい卵」を
見抜くスキルってあるんですか?
常温販売の卵はNG。「産卵日」に注目!
河岸:スーパーやコンビニで卵を買うときは、さっきも言ったけど、常温販売の卵はNG。必ず冷蔵
販売しているものを、せめて買ってほしい。もうひとつは「賞味期限」だけじゃなくて「産卵日」
が書いてある卵を買うということ。
N君:スーパーでは「産卵日が書いてある卵」と「産卵日が書いてない卵」の両方が売られて
いますよね。
河岸:そう。同じメーカーのまったく同じ卵なのに、A店で売られている卵には「産卵日」が明記
されているのに、B店で売られているものは「賞味期限」だけしか書かれていなかったりする。
一度、スーパーの卵売り場を見比べてみてください。まったく同じメーカーの卵なのに、「賞味期限
だけの卵」と「賞味期限+産卵日も記載の卵」の両方があることに驚くはずです。
N君:これは、実際に見たら衝撃的ですね。みなさんがよく買う「あの人気の卵」も、店によって
「産卵日」があったりなかったりするわけですね。その理由は?
河岸:全部のスーパーで「産卵日」を明記したら、冒頭で述べたみたいに、特売日にたくさん
「新しい賞味期限」の卵を並べられないからね。だから、あるスーパーには産卵日入りのものを
出荷するけど、そうじゃないスーパーには賞味期限だけのものを出荷する。スーパーとの力関係
によるところも大きいの。
N君:「冷蔵販売」のものを買うのは大前提。そのうえで「産卵日」が書いてあるものを買うわけですね
これなら誰でもできそうです。次回は、今回の話を踏まえて、いよいよ「ヤバすぎる外食の
『卵事情』」を解説しましょう!
というわけで、「ヤバすぎる『卵』の裏側」はここまでです。
詳しく書くとキリがないので、卵が好きでよく食べる方、もっと裏側を知りたい方は、ぜひ新刊
『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』と併せて、前作『スーパーの裏側』もお読みください。
ここには書いていない、米国に比べてはるかに後れている「日本の卵流通の仕組み」や、
「栄養強化卵」の裏側、はたまた刺身やハム、トンカツなどの「使い回し」や、スーパーで売られて
いる「朝採れレタス」「焼きたてパン」のカラクリなどについて、詳しく書いています。
2冊併せて読めば、今日からみなさんの外食とスーパーでの買い物が変わると確信しています。
転載終了
河岸 宏和 :食品業界を知り尽くした男
N君:で、今回は「ヤバすぎる『卵』の裏側」ですか。「ヤバすぎる外食の『卵事情』」の前に、まずは
「卵全体の裏側」を取り上げるわけですね。河岸さんは卵メーカーに10年勤めて「卵のプロ」
とも呼ばれていますが、いつも「すべての偽装は『卵』に通じる」と、外食でも卵はめったに
口にしませんよね。
河岸:だって、卵業界の「ごまかし」はひどいからね。日本人は1人平均、年300個以上は食べる
卵が大好きな国民のうえに、生卵で食べる習慣まであるのに。スーパーに買い物に行っても
卵は老若男女、必ず買う食品のひとつでしょう。
N君:卵の特売日には、朝から行列ができるスーパーもありますよね。
河岸:でも、そもそもその光景に大きな問題が潜んでいる。卵が売れる割合は、平日を「10」とすると
週末は「30」。それが卵の特売日になると「100」も売れる。一般的にスーパーは週末のほうが
にぎわうけど、特売日になると平日の10倍も卵が売れる。
N君:それだけ聞くと、「特売日だし、当然かな」と思いますが……。
河岸:問題は特売日に並ぶ卵は、どれも賞味期限が新しいこと。鶏は毎日卵を産むわけだよね。
特売日に合わせてたくさん産んだりはしない。毎日ほぼ同じ数だけ産まれる。だけど、
特売日には同じ賞味期限のものが、平日の10倍も並んだりする。何かおかしいと思わない?
N君:確かに、同じ賞味期限の卵が特売日だけ10倍も並ぶのは、いかにも変ですね……。
もしかして、賞味期限を“偽装”しているってことですか?
河岸:そもそも卵の賞味期限って、どうやって決まると思う?
N君:それは「卵を産んだ日から何日後」で決まるんじゃないですか。
河岸:いや、そうじゃないの。卵の賞味期限は「パックされた日から何日後」で決まるの。
N君:えっ? じゃあ古い卵でも、今日パックしたら、賞味期限は今日から何日後になるわけ
ですか? つまり「同じ賞味期限」の卵でも、「産卵日が同じとは限らない」ということですか?
河岸:そのとおり。それは卵に限らないけどね。スーパーで売られている食品にはそんなものが
たくさんある。たとえば、半年前に作って冷凍したアジの干物だって、スーパーで今日、
解凍すれば、その日が「製造日」になり、その日を基準に賞味期限が決められる。何日も
前に作ったお弁当も、店でラベルを貼れば、そのラベルを貼った日が「製造日」になる。
N君:なぜ、そんなことが許されるんですか?
河岸:「解凍すること」「袋にラベルを貼ること」「パックに詰めること」も、法律ではすべて「最終加工」
と見なされ、「製造日」になるから。その日を基準に、賞味期限が決められる。そう法律で
決まっているから、法律違反でも何でもない。
N君:すごい理屈ですね……。『スーパーの裏側』の帯の裏に「えっ? そんなことまで合法なの?」
とコピーを載せた理由は、それなんですね。
ベストセラーになった前作『スーパーの裏側』の帯裏。スーパーの「合法的偽装」に加えて、卵の
偽装についても30ページにわたってたっぷり解説しています!
河岸:ほかにも、スーパーの「合法的偽装」には、売れ残ったトンカツを「カツ丼」に“リサイクル”
したり、売れ残った刺身やハムを“再パック”して今日の日付で出し直す「使い回し」もある
けどね。詳しくは『スーパーの裏側』に書いたとおり。
卵の賞味期限=「産卵日」ではなく「パックした日」で決まる
N君:卵に関しても同じで、「卵をパックに詰めた日」から、賞味期限が計算されているんですね。
河岸:そのとおり。特売日に平日の10倍、同じ賞味期限の卵が並ぶ理由がここにある。卵は毎日
ほぼ同じだけ産まれるけど、それを保管しておいて、特売日に合わせてパックするんだ。
だから賞味期限が新しい卵が、平日の10倍、店先に並ぶことになる。
N君:中には古い卵も混じっているわけですね。それを生で食べると考えると、ちょっと違和感が
ありますよね……。
河岸:卵の生食については、もうひとつ別の問題もあるけどね。
N君:「外食では極力、卵を食べない。とりわけ生の状態では絶対に食べない」というのが河岸さん
のスタンスですが、外食で卵を食べない理由は何ですか?
河岸:卵の生食については、鮮度の問題に加えて、もうひとつ「サルモネラ菌」の問題もあるからね。
すべての卵はサルモネラ菌に冒されている危険性があるの。
N君:高級卵やこだわりの卵でも、同じようにサルモネラ菌のリスクがあるんですか?
河岸:そのとおり。消費者が普通に買える卵で「この卵は100%絶対安全」と言い切れるものはない
N君:じゃあ、卵は食べると危険ということですか?
河岸:そんなことはないよ。仮にサルモネラ菌がいても、75度で1分間加熱すると死滅するから、
しっかり加熱した卵なら大丈夫。
N君:生卵や半熟の卵はどうですか?
河岸:加熱しなくても、産まれてすぐ10度以下で保管すれば、仮にサルモネラ菌がいても60日間は
食中毒レベルまでは増殖しない。でも、36度で保管すると、1日で食中毒が起きるレベル
まで増殖する。
N君:なるほど、「きちんと温度管理されている卵を買う」のが重要ということですね。
河岸:冷蔵販売されていても、店に運ばれるまでに常温だったら意味がないから、「冷蔵『輸送』、
冷蔵『保管』、冷蔵『販売』」の3つが必要不可欠ということ。いずれにせよ、卵を常温で販売
している店なんて論外だよ。
N君:スーパーでも、常温で卵を売っている店と、冷蔵販売している店の両方がありますよね。
前作『スーパーの裏側』がベストセラーになり、『週刊ポスト』や『SPA!』でも大きな記事に
なったおかけで、冷蔵販売のスーパーがだいぶ増えた気もしますが。
河岸:確かに増えたけど、まだ一部だよね。「卵の常温販売は非常に危険」ということをぜひ消費者
だけでなく、販売者も知ってほしい。卵の温度管理について、あまりにも日本人は無頓着
すぎるよ。
幼い子どもや高齢者は、サルモネラ食中毒で命を落とすことも
N君:外食でいえば、調理場や厨房で、卵を常温で置きっぱなしにしている店はすごく多いですね。
河岸:お好み焼屋とか、すぐ隣で火を使っている店でも、その隣に置きっぱなしにしている店がある
よね。信じられない。そんな店、食のプロから見れば、論外中の論外だよ。
N君:僕も一度、お好み焼を食べたあと、すごい腹痛に襲われましたが、でもサルモネラ食中毒という
証拠はないわけですよね……。
河岸:そこが卵特有の難しさだよね。同じ卵かけご飯をみんなが食べたとしても、サルモネラ菌の
卵に当たったのは、自分だけかもしれない。常温で置きっぱなしにしていたとしても、みんなが
繁殖するわけじゃないし。
N君:そこが集団食中毒とは違うところですね。逆に言えば、だからこそ原因追及が難しく、運悪く
当たってしまった人は泣き寝入りするしかない、と。
河岸:泣き寝入り程度で済めばいいけど、幼い子どもやお年寄りは、サルモネラに当たって命を
落とすこともあるわけだからね。
N君:8歳の男の子や9歳の女の子が、卵かけご飯を食べて、サルモネラ中毒と見られる症状で
亡くなったというニュースもありましたよね……。今年も、サルモネラ中毒で亡くなった70代
女性の裁判で、「生産業者に責任あり」と約4500万円の支払いを命じた判決もありましたよね
河岸:きちんと温度管理がされていない卵を、しっかり加熱せずに食べることには、それくらいリスク
がある。そのことはぜひ知ってほしい。もちろん、むやみに恐れる必要はなくて、さっきも言った
ように「冷蔵『輸送』、冷蔵『保管』、冷蔵『販売』」している卵なら、まず安心できるけどね。
卵の「殻の色=鶏の羽の色」って知ってました?
河岸:卵でいえば、「色」についての誤解も多いよね。消費者が知らないことをいいことに、メーカー
や流通がうまくやっている。
N君:卵の色っていうのは、卵の「殻の色」や「黄身の色」ですか?
河岸:そう。だって、「赤玉(赤い卵)のほうが、白玉(白い卵)よりちょっと高級」と思っていない?
N君:えっ、そうじゃないんですか!? 赤玉のほうがおいしそうだし、実際、値段も高く売られて
いませんか?
河岸:消費者が「赤玉は白玉よりちょっと高級」と勝手に誤解してくれているから、その誤解に
合わせて高く値段をつけているだけ。実際は「卵の色=鶏の羽の色」だから。
N君:えっ? 卵の色って「羽の色」なんですか。
河岸:そのとおり。白い鶏は「白い卵」を産み、赤茶の羽の鶏は「赤茶の卵」を産む。
N君:そうですか、栄養とは何の関係もないんですね……。
卵の「黄身の色=エサの色」って知ってました?
河岸:それに卵の「黄身の色=鶏が食べたエサの色」ってことも意外にみんな知らないよね。
N君:えっ? 「エサの色」が「黄身の色」になるんですか?
河岸:そうだよ。エサに米を食べさせたら黄身が白っぽくなるし、ホウレン草を食べさせたら緑っぽく
なる。
N君:「昔の卵は黄身が濃かった」と言うじゃないですか。あれはてっきり、昔のほうが栄養価が高
かったからだと思っていました。
河岸:昔は、主なエサが草だったから、黄身の色が濃かったの。でも消費者の大半は「黄身の色は
濃いほうが栄養があるしおいしい」と勘違いしているから、鶏にパプリカとかを食べさせて、
無理やり黄身の色を濃くしているんだ。
N君:パプリカって、あの香辛料のパプリカですか?
河岸:そうだよ。それをエサに混ぜて、鶏に食べさせている。今のエサはトウモロコシが主流だから、
どうしても黄身が白っぽくなる。だから、パプリカを混ぜて、色を濃くしているんだ。
N君:なるほど、卵は普段よく食べるのに、何も「裏側」を知りませんでした……。では、「いい卵」を
見抜くスキルってあるんですか?
常温販売の卵はNG。「産卵日」に注目!
河岸:スーパーやコンビニで卵を買うときは、さっきも言ったけど、常温販売の卵はNG。必ず冷蔵
販売しているものを、せめて買ってほしい。もうひとつは「賞味期限」だけじゃなくて「産卵日」
が書いてある卵を買うということ。
N君:スーパーでは「産卵日が書いてある卵」と「産卵日が書いてない卵」の両方が売られて
いますよね。
河岸:そう。同じメーカーのまったく同じ卵なのに、A店で売られている卵には「産卵日」が明記
されているのに、B店で売られているものは「賞味期限」だけしか書かれていなかったりする。
一度、スーパーの卵売り場を見比べてみてください。まったく同じメーカーの卵なのに、「賞味期限
だけの卵」と「賞味期限+産卵日も記載の卵」の両方があることに驚くはずです。
N君:これは、実際に見たら衝撃的ですね。みなさんがよく買う「あの人気の卵」も、店によって
「産卵日」があったりなかったりするわけですね。その理由は?
河岸:全部のスーパーで「産卵日」を明記したら、冒頭で述べたみたいに、特売日にたくさん
「新しい賞味期限」の卵を並べられないからね。だから、あるスーパーには産卵日入りのものを
出荷するけど、そうじゃないスーパーには賞味期限だけのものを出荷する。スーパーとの力関係
によるところも大きいの。
N君:「冷蔵販売」のものを買うのは大前提。そのうえで「産卵日」が書いてあるものを買うわけですね
これなら誰でもできそうです。次回は、今回の話を踏まえて、いよいよ「ヤバすぎる外食の
『卵事情』」を解説しましょう!
というわけで、「ヤバすぎる『卵』の裏側」はここまでです。
詳しく書くとキリがないので、卵が好きでよく食べる方、もっと裏側を知りたい方は、ぜひ新刊
『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』と併せて、前作『スーパーの裏側』もお読みください。
ここには書いていない、米国に比べてはるかに後れている「日本の卵流通の仕組み」や、
「栄養強化卵」の裏側、はたまた刺身やハム、トンカツなどの「使い回し」や、スーパーで売られて
いる「朝採れレタス」「焼きたてパン」のカラクリなどについて、詳しく書いています。
2冊併せて読めば、今日からみなさんの外食とスーパーでの買い物が変わると確信しています。
転載終了