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新型コロナウイルスを「抗体」で治療する医薬品の開発が、いま急ピッチで進められている

2020-06-11 | 医療、健康

日本でも北里が、中和抗体を作っており、新薬などに期待ができます。
https://wired.jp/2020/06/04/coronavirus-covid-19-antibody-treatment/?utm_source=yahoo.co.jp_news&utm_campaign=yahoo_ssl&utm_medium=referral
新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発競争が激化するなか、異物から体を守る「抗体」を利用した医薬品の開発が進められてる。ワクチンより早期に開発できる可能性に加えて、治療薬としての効果も期待される抗体医薬品は、いまさまざまなアプローチでの開発が加速している。
「ワクチンが必要なんです」と、感染症対策に詳しい免疫学者のヤコブ・グランヴィルは言う。早口と巻毛が印象的な彼は、かつて科学者としてファイザーに所属しており、インフルエンザの万能ワクチンの開発を何年も続けてきた経験がある。
グランヴィルがサンフランシスコで立ち上げたスタートアップのDistributed Bioは、さまざまなワクチン接種プロジェクトの先頭を走っている。そして当然のことながら、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」との闘いを支援するバイオ医薬品の開発にも熱心に取り組んでいる。
だが、意外なことがある。新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)のワクチン開発からは距離を置き、並行して進められている抗体医薬品の開発競争へと参入したのだ。
あえて抗体医薬品の開発を選んだ理由
グランヴィルは世界中の研究所のさまざまな研究チームと協力しながら、新型コロナウイルスへの対策を補完する手段として抗体医薬品の開発を進めている。ワクチンとは異なり抗体医薬品は、長期的に病気を防ぐことはできない。代わりに、体が感染を(一時的にではあるが)即座に撃退したり、差し迫った感染を予防したりできるようにする。
 
この決断には時間も関係している。「ワクチンの開発には非常に時間がかかります」と、グランヴィルは言う。従来の臨床試験では健康な人にワクチンを投与し、免疫を獲得できるか観察する必要がある。有効性の証明には長い期間待つ必要があるのだ。
モデルナのような注目されているバイオテクノロジー企業は、わずか数カ月でヒト臨床試験に進むことができた。それでも多くの研究者は、政治家や評論家が示している予防接種の実現までの楽観的なタイムラインに疑問を抱いている。
抗体治療の独自研究に取り組んでいるテネシー州のヴァンダービルト大学ワクチンセンター副所長のロバート・カーナハンは、「実用化までの道のりは抗体のほうが短いと思います」と言う。「すべての人に新型コロナウイルスに感染させるか、ワクチンを接種するかのどちらかです。抗体はワクチン接種が実現するまでの橋渡し役を果たせます」
抗体を活用する利点
ウイルスに暴露すると、免疫システムは異物から体を守るたんぱく質である「抗体」をつくり出す。これが世界中で新型コロナウイルスと闘っている人の体内で起きている現象だ。
症状が治まったあとに抗体は血液中に残り、将来的な感染を予防する。現在の医学では、COVID-19患者に回復した患者の血しょう(血漿)を輸血することで、有効な抗体を体内に導入することが可能だ。
回復した患者の血液を使って病気を防ぐ方法は、古くからある治療法である。これまでにも回復期血清は、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ出血熱の患者の治療に使われてきた。これまでのところ回復期血清は、COVID-19患者の回復につながることが確認されている。
 
ただし、大きな欠点がいくつかある。最も明らかな欠点は規模の問題だ。世界で回復期患者の血液の供給量は限られていることから、これまでに感染した人が自ら毎週献血したとしても、十分な量の血清を収集することは不可能である。血液の収集と分配のプロセスも複雑で、大きな労力を要する。
また、このプロセスの効率があまりよくないという問題もある。提供者の血液にはCOVID-19だけでなく、過去のさまざまな感染に対する抗体が含まれている。このため、実際にSARS-CoV-2を排除できる抗体は、血清中に多くは存在しないかもしれないのだ。
そこで回復期血清の理論を応用・改良したものが抗体医薬品である。人間の体内で産生されるCOVID-19の抗体に注目し、標的をさらに絞った強力でスケーラブルなヴァージョンをつくる。そして人間の腕から採血する代わりに、研究室で大量生産する。
 
治療プロセス自体も、血清の注入よりはるかに簡単なものになれば理想的だ。「外来治療で対応できるような皮下注射で投与できるかもしれません」と、免疫学者のグランヴィルは言う。
さまざまな開発アプローチ
とはいえ、そうした抗体医薬品の投与は現時点では仮説にすぎない。科学者たちの研究開発競争はせめぎ合いの段階にあり、どの種類の抗体治療がリードすることになるかはわからない。
すでに多くの科学者が効果のある抗体を特定し、COVID-19に対処できる証拠をつかんだと考えている。しかし、研究室の環境で有望に見えたとしても、やるべきことは山積している。まず、その抗体が感染した動物の体内で効果を発揮することを確認し、感染した人間の体内でも効果を発揮することを確認する。そのうえで、安全かつ費用効果の高い方法でタイミングよく大量生産できることを確認する必要があるのだ。
 
コネチカット州ニューヘイヴンの製薬会社クリオ・ファーマシューティカル(Kleo Pharmaceuticals)の共同創業者でイェール大学の化学教授のデヴィッド・シュピーゲルは、「さまざまなアプローチの数多くの研究が進んでおり、そのすべてが有望です」と語る。「まさに実験科学です」
実際に多種多様なアプローチでの抗体開発が進んでいる。免疫学者のグランヴィルが率いるDistributed Bioとシュピーゲルのクリオ・ファーマシューティカルは、どちらも合成抗体を開発している。骨粗しょう症の治療法を求めて合成抗体を開発した経験をもつ内分泌学者のモネ・ザイディが率いるマウント・サイナイ医科大学のチームも同様だ。
しかし、三者の開発アプローチは異なる。クリオ・ファーマシューティカルは、健康な人間の患者の血液を精製した市販の静注用免疫グロブリンを化学的に変化させることで、COVID-19だけに対処する物質をつくっている。「基本的に抗体を人工合成しているのです」と、シュピーゲルは言う。
 
これに対してグランヴィルはハイテク技術を駆使したアプローチをとっており、計算科学的な手法で適切な抗体を設計している。このアプローチをグランヴィルは、タンブラー錠の操作にたとえる。
「基本的にわたしが使う技術は、銀行強盗の映画でタンブラー錠のすべての組み合わせを試すようなものです」と、グランヴィルは言う。コンピューターは「数十億の変異ヴァージョン」を生成し、新型コロナウイルスを効率よく撃退できるように既存の抗体をカスタマイズする。
ニューヨークのザイディのチームはニュージャージー州のバイオテクノロジー企業GenScriptと協力し、コンピュテーショナル・モデリング技術を応用している。グランヴィルは変異前のSARSウイルスに対して非常に高い効果をもつ抗体を起点に開発を進めているが、ザイディは新型コロナウイルスの結晶構造を調べ、新型コロナウイルスがヒト細胞に結合するのを防ぐ効果が最も高い合成抗体をつくるアプローチをとっている。
 
ラマの抗体を活用するプロジェクトも
一方で、抗体を開発するために動物界に目を向けている研究者もいる。テキサス大学の研究者のダニエル・ラップは、抗体開発にまったく縁のなさそうなベルギーのラマに注目した。そしてベルギーのヘント大学と協力し、「ウィンター」という名の4歳のラマの血液中にあるナノボディが有望であることを発見した。
ラップとヘント大学の共同研究者は2016年以来、ラマの抗体によるMERSやSARSなどのウイルスの撃退を研究してきた。そして「ナノボディ」と呼ばれるラマの小さな抗体が、MERSやSARSなどのコロナウイルスを中和する効果があることが判明したのである。
COVID-19のアウトブレイクが起きると、彼らはすぐにこのラマの抗体がSARS-CoV-2に対して使えるか確認する研究へと移行した。「ナノボディは従来の抗体の約半分のサイズであることから、より安定しています。また、ナノボディはより大きな抗体が結合できないたんぱく質の一部に結合することができます」と、ラップは説明する。
 
なお、ラップによると、特殊な抗体の一種であるナノボディは、主にラクダ科の動物とサメが保有しているが、サメよりラマのほうが扱いやすいのだという。ラップの研究チームはラマから取り出したナノボディの塩基配列を決定したあと、研究室でナノボディの作成を開始し、COVID-19に対処できるように改良している。
すでに動物実験に進んたプロジェクトも
世界中の製薬会社や研究機関で、こうした数百ものプロジェクトが進行中だ。開発段階はさまざまだが、すでに動物実験に進んたプロジェクトもある。
グランヴィルとラップは、新型コロナウイルスに感染させたハムスターに開発中の抗体を投与し、反応が確認できるのを待っている段階だ。北京大学では生化学者の謝暁亮(シェ・シャオリャン)が、回復した患者のB細胞に基づく抗体医薬品のマウス試験を完了している。謝のプロジェクトと米国を拠点とする多くのプロジェクトで、7月と8月にヒト臨床試験が開始されることが見込まれている。
 
また、米国防高等研究計画局(DARPA)の生物技術室(BTO)の責任者であるブラッドリー・リンガイゼンは、資金を支援しているプロジェクトのうち少なくとも2件が、この夏にヒト臨床試験に進むと考えている。
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)は、6月に抗体カクテルのヒト臨床試験を開始する。同社は最近、秋の供給を目指していると投資家に発表した。グランヴィルは、Distributed Bioも同様のタイムラインになると考えている。「厳しい仮定ですが、すべてが順調に進んだ場合、9月に大量供給を開始できると思います」と、グランヴィルは言う。
 
大量供給の実現は、有効性だけでなく、規制の壁を乗り越えられるかどうかにも依存する。リンガイゼンは、合成または計算科学に基づいて作成される抗体よりも、ヒト抗体を使用するプロジェクトをDARPAは優先しているのだと言う。手法が実験的であればあるほど、規制のハードルに引っかかる可能性が高くなると懸念されるからだ。「ヒトの抗体ではないか、もしくはヒトに由来しない抗体の場合、規制プロセスにかかる時間が長くなる可能性があります」と、リンガイゼンは言う。
量産が課題に
ラホヤ免疫研究所では、免疫学者のエリカ・サファイアがさまざまな抗体治療の有効性と、低中所得国を含む世界規模での大量生産の可能性を評価するプログラムを実施している。抗体治療開発プロジェクトがクリアする必要のある壁のひとつに、抗体の有効性に加えて、抗体の簡単かつ安価な生産の実現がある。「大量生産ができないなら、世界的な治療法にはなりません」と、サファイアは言う。
 
「いまの大きな頭痛の種は製造です」と、グランヴィルは言う。「従来の方法で抗体を薬物として培養するには、恐ろしいほど時間がかかります」
そこでグランヴィルは、時間を節約できる可能性がある抗体生産手段をもつ別のシリコンヴァレーの会社と交渉中だ。しかし、スピードのために信頼性を犠牲にすべきかどうかは難しい問題である。「リスクは高くなりますが、うまくいけばヒト臨床試験へと進むタイムラインを2カ月ほど短縮できる可能性があります」と、グランヴィルは言う。
DARPAも生産拡大の問題を懸念し、厳選した抗体医薬品の大量生産に向けてバイオリアクターを使えるよう、アストラゼネカなどの製薬パートナーと協力している。リンガイゼンは、すべてが順調に進むと仮定した場合、2021年初めに生産拡大の準備ができると見込んでいる。
抗体研究者のなかには、開発中の抗体医薬品がワクチンより大幅に早く実用化できるかもしれないと考える人もいる。だがリンガイゼンは、ワクチンと抗体医薬品のタイムラインはそれほど変わらないと考えている。これに対してサファイアは、「楽観の程度は人それぞれですから」と言う。
 
ワクチンにない強み
抗体治療の価値は、ワクチン治療よりも早く抗体治療が実現できる可能性だけではない。人によっては、抗体治療はワクチンよりはるかに役立つのだ。
例えば、すでに新型コロナウイルスに感染している人にはワクチン接種は手遅れだが、抗体の投与はCOVID-19の治療に役立つ可能性がまだある。そして乳幼児や高齢者、そして免疫障害をもつ人には、ワクチンがあまり効果を発揮しないことが多い。こうした人にとって抗体治療は、待望の防御策となる。
そして、このことが開発の緊急性を高めている。急いで治療を実現しようとしている研究者たちは、時間的なプレッシャーを感じてもいる。グランヴィルが言うように「まさに全力疾走の最中」なのだ


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