天気がよくなかったので、放射線療法の副作用との関係について、もう一つ具体例を挙げておこう。メンタルな症状(あるいは病的でなければ、感情の変化)をみておこう。
その前に脱線して、余り関係がないかもしれないけど、不思議な記事なので紹介しておこう。日経新聞の記事から、
精神疾患治療、訪問で後押し 医師ら、未受診者など対象 重症化防止へ診療促す
2012/6/7付
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO42290170X00C12A6NNSP01/ (リンクはココ)
精神疾患の治療を中断した人や、その疑いがあるのに受診しない人のもとを医療チームが訪問する「アウトリーチ」の取り組みが広がっている。外来治療につないで重症化を防ぎ、地域で生活できる状態にすることが狙いだ。厚生労働省は昨年度、全国でモデル事業を開始。東日本大震災で被災した人たちの心のケアにも取り入れられている。
[中略]
アウトリーチは東日本大震災の被災地でも取り入れられている。
福島県では、東京電力福島第1原発事故の影響で、30キロ圏内の5病院、計900床の精神病床が閉鎖。その大半は今も使用できない状態が続いている。
福島県立医大は震災直後から、原発以北の相双地域でボランティアとともに被災者の心のケアにあたった。同大学教授らは継続的な活動を目指して特定非営利活動法人(NPO法人)を設立。今年1月、「相双広域こころのケアセンターなごみ」を開設し、相馬市や南相馬市、新地町でアウトリーチを始めた。
センター長の米倉一磨看護師(38)によると、これまでに、震災の影響で新たに精神症状が表れた人や、通院できなくなった患者など約20人を訪問したという。
センターは福島県の「心のケアセンター」の委託を受け、仮設住宅の入居者や自治体職員の心のケアにも取り組む。NPO法人副理事長の大川貴子・県立医大准教授は「家は無事でも帰れる見通しが立たなかったり、仕事を失いアルコールに頼ったりするなど、今後深刻化が予想される問題は多い。長期的な対応が必要だ」と話している。 (強調は引用者)
個人的にこの記事が不思議だと思う点は、二つある。一つは、この記事で取り上げられた「アウトリーチ(訪問支援)」は、本来は自殺・うつ病対策の側面があるのだけど(厚労省サイトの「自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて」 http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/07/03.html を参照。リンクはココ)、その点に全く言及がない点である。何か自殺・うつ病を前面に出したくない理由でもあるのか、とも考えてしまう。
もう一つは、住民に対しSPEEDI情報を隠蔽した福島県の下部機関(福島県立医大)が、3.11直後から取り組みを開始し、長期的活動を見こして今年の1月にはNPO法人まで設立している点である。かなりスピーディ。何故だろうか。それに、対象地域も何故か原発の北側のみ。
余り考えすぎるのもよくないので、本題に戻ろう。
先ずは一般的な質問から。がんを患うことにより、患者にメンタルな症状は起こり得るのか?
この答えは当然「Yes」である。なぜなら、がんの告知を受けたことによる精神的ショックや、がんの病状が続いていることに伴う精神的影響があり得るからである。このようなため、我が国では、かつて、患者のためを思ってがんの告知しないという考え方が主流だったこともあった。
では、次の質問。がんを治療するための放射線療法の副作用としては、メンタルな症状はあり得るのか?
仮にあったとしても、前回の記事を読んだ方なら、国立がん研究センターのサイトを探してもないだろう、と気づくはずだ。倦怠感を「毎日外来通院してくる疲れ」かもしれないとするなど、副作用を小さくみせるような解説がなされる雰囲気の中で、あえて言及される可能性はほとんどないだろう。なぜなら、黙っていれば、がんを患うことに伴うメンタルな症状と混同されて、区別がつかない可能性があるからだ。
実際、メンタルな症状は放射線療法の副作用として位置付けしないとの合意でもあるかのように、日本語ウェッブを調べても、なかなか見つからない。
では、見つからないというのは、ないということなのだろうか。
いや、残念ながらそうではない。調べる角度を変えると、不完全ながらも、断片情報が出てくる。治療推進側の視点から書かれたものではなく、患者本人やその家族をいたわる視点で書かれたものを探す必要があるのだ。「国立病院機構 大阪医療センター」のサイト内にある、がんサポートチーム作成の患者・家族向け冊子から、
4. 精神的に不安になったり落ち着かなくなったとき
http://www.onh.go.jp/seisaku/cancer/support/main.html#4 (リンクはココ)
がんの治療を受けておられる方に精神的な面で悩まれることもたびたびあります。
急に落ち着かなくなった、不安がっている、言っていることが変だ
がんの治療を受けておられる方の3割から8割の方に、突然まわりの様子や時間、今いる場所が分からなくなり混乱されることがあります。夜なのに朝だといったり、誰もいないのに人が入ってきたように感じられたり、ご家族の顔が分からなくなったりします。不安も強くなり、点滴に毒が入っていると思い、点滴を抜いたり、ベットから落ちて怪我をすることもあります。このように意識や注意、知覚、思考が乱れる症状が急激に起こる状態をせん妄といいます。せん妄は炎症や感染で熱が出たり、脱水や塩分のバランスが崩れたり、肝臓、腎臓の機能が落ちたり、薬が体に合わなくなったりしたときに起こります。体が原因で起こる一時的な精神症状であり、認知症(痴呆)とは異なり、適切な治療により回復します。・・・
ゆううつになる、やる気がしない、眠れない、寝てもすぐに目が覚めてしまう、そわそわする
がんの治療を受けておられる中で、無気力になったり、ゆううつな気分が続いたり、眠れなくなる、寝てもすぐに目が覚めてしまう、体がだるくて仕方がないことはしばしばあります。気分が落ち込むことはよくあることです。しかし、いつまでたっても気分が沈んだままで普段の生活ができなくなったり、治療が進められない場合、うつ病が原因となっているときがあります。がんの治療を受けておられる方の4人に1人がうつ病になるともいわれています。・・・ (強調は引用者)
なるほど。せん妄のほか、無気力、ゆううつ、不眠、体のだるさ、気分の落込み、うつ病。
但し、この文章には、ちょっと注意が必要である。治療法が、放射線療法なのか、化学療法なのか、あるいは別の他の療法なのか、明確でないからである。やはり、海外サイトの情報に頼る必要があるようだ。
海外サイトをみてみよう。前回の記事で紹介したアメリカ癌協会(American Cancer Society)のサイトからだと、
Common side effects - How will I feel emotionally? [共通する副作用 - 感情的にはどのように感じますか?]
http://www.cancer.org/Treatment/TreatmentsandSideEffects/TreatmentTypes/Radiation/UnderstandingRadiationTherapyAGuideforPatientsandFamilies/understanding-radiation-therapy-emotions (リンクはココ)
Many patients feel tired due to the radiation therapy, and this can affect emotions. You also might feel depressed, afraid, angry, frustrated, alone, or helpless.
多くの患者は放射線療法のために疲労を感じます。これは感情に影響を与えることができます。また、抑うつ、恐れ、怒り、不満、孤独、または無力感を覚えるかもしれません。 (訳は引用者)
いろいろ出てきた。抑うつ、恐れ、怒り、不満、孤独、無力感。また、放射線療法→副作用としての倦怠感→感情の変化という経路もありそうだ。
もう少し詳しい内容がないかを調べてみると、英国の「Cancer Research UK」のサイト「CancerHelp UK」から、
Emotional effects of radiotherapy [放射線療法の感情への影響]
http://cancerhelp.cancerresearchuk.org/about-cancer/treatment/radiotherapy/side-effects/general/emotional-effects-of-radiotherapy (リンクはココ)
Feelings and emotions you may have
"During my radiotherapy I became very emotional. I'd start crying for no reason." This is how one woman reacted.
Other people say they feel low or depressed a couple of weeks after their treatment has finished. It is very common to feel anxious and depressed during treatment. Many people having radiotherapy share these feelings. You may have a whole range of feelings - from anxiety, fear, hopelessness, anger to depression. These feelings are all common during treatment for cancer. Radiotherapy can make you tired and this can make it feel even harder to cope.
あなたが持つかもしれない感覚と感情
「放射線治療の間、私は非常に感情的になりました。理由もなく泣き始めました。」 これはとある女性の回答です。
他の人々は、治療が終了した後数週間、気分の低下あるいは抑うつを感じると言っています。治療中に不安と抑うつを感じることは、非常に一般的です。放射線治療を受けた多くの人々は、これらの感情を共有しています。あなたは、次の感情を全て感じるかもしれません - 不安から、恐怖、絶望、怒り、うつ病まで。これらの感情は、がんの治療中によくみられます。放射線治療では倦怠感が起こることもあり、その場合は対処することが一層難しくなり得ます。 (訳は引用者)
以上の解説をみれば、放射線療法の副作用として、感情の変化(あるいは病的なものであればメンタル症状)があることは明らかではないだろうか。
仮に読者の方が健康・公衆衛生関係の公務員だとして、何らかの理由により、地域の住民の間でうつ病がはやる可能性があると想定される場合、何をしなければならない、と考えるだろうか。
自分がその立場であれば、人材を確保できるなら地域の精神科医を増やす方法がよいのかもしれない、あるいは医療関係者を院外に飛び出させ住民の中に入っていって活動をさせる方法がよいのかもしれない、とかを考えるだろう。
いろいろ考えてみると、冒頭の記事との繋がりがみえたような気がするが、単なる思い過ごしであろうか。
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